スタッフ日記

「HIV陽性」看護師への就労制限、情報の目的外利用は違法の判決

昨日、福岡高裁で係争中の、HIV陽性の看護師による裁判の判決がでた。地裁での判決に続き、『「HIV陽性」看護師への就労制限は違法 2審も病院に60万円の賠償命令』という判決がくだされました。

この裁判の争点は、職場で対象不良になった看護師が職場の医師により大学病院に紹介され、その紹介状への返信に書かれていた「紹介患者は陽性であった」という情報の扱いです。勤務先だとはいえ、それを本人の同意なく、労務管理を目的とした利用が妥当かどうかというプライバシーの扱いの是非、自宅待機が就労制限なのかが論点になっていまし た。

この裁判への判決の情報を探すため、ツイッター上で検索してみたら、なんとも微妙なコメントがあまりも多いのに驚きます。「HIV陽性の看護師の世話になりたくない」などとつぶやく声が複数ありました。こうした身近にはいない、陽性とわかった人たちと関わりたくないという、初歩的な誤解は、当事者がなんとかすることではなく、社会が理解を促進すべきことです。

自分の感染に気付き、医療的なケアをしているHIV陽性者は身体のウイルスをコントロールしており、その多くは、もはや感染源ではあり得なくなっています。課題になっているのは、生活者のなかに、自分の感染を知らずにすごしている人たちがいること、このような人たちをどのように少なくできるかが、私たちの社会が解決すべき問題なのです。

実は、この原告と同じような経験をもつ、HIV陽性の医療従事者は多くいます。
ぷれいす東京の研究班による全国調査では、就労している829人中の14%が医療福祉の職場ではたらいていました。
http://www.chiiki-shien.jp/image/pdf/atyousa.pdf

ぷれいす東京では、HIV陽性の看護師にミーティングを開催したり、相談活動のなかで、多くの似た状況の方に数多くお会いしますが、すべてがこのような排除にあっている訳ではありません。受け止めて、職場で情報をコントロールしながら、就労継続をしている事例も多々あります。

このような訴訟や、控訴を続ける医療のスタンスは、今後、看護師として働く人たちがHIV検査にいくことが、不安であったり、人によっては恐怖になってしまうと、発症まで感染に気づかないなどの事例が増えてしまうのではと心配になります。

実は相談のなかでは、発症で初めて 感染に気づく人に多々出会います。「看護師だし、検査を受けるのが怖かった」という人も。看護師であることを辞めてしまう人でさえいます。この日本の社会で、 医療の現場がHIV陽性者でが安心して働ける場になることを期待します。本当は、安心して、HIV陽性であることを伝えられて、適切な配置が模索できる環境が実現することが、HIV陽性の医療者にとっても理想なはずです。

参考までに、アメリカでは、以下のガイドラインで、HIV、肝炎をもつ、医療従事者が血液中のウイルスの状態にあわせて、業務の範囲が定められています。医師でHIV陽性の場合も想定されたものになっています。
SHEA Guideline for Management of Healthcare Workers Who Are Infected with Hepatitis B Virus, Hepatitis C Virus, and/or Human Immunodeficiency Virus
https://www.cpso.on.ca/…/memb…/membership/shea-guideline.pdf

生島

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