陽性者と家族の日記

去年の今と、今年の今

先日、病院からの帰り道。

ちょうど去年の今頃、命の線引き。という文章を書いた事を思い出した。

病院に行って薬を貰う。2ヶ月分で、40万弱。
特になんて事はない、定価2000円くらいのかわいらしいバッグに入っている。

今でも世界に目を向ければ圧倒的に多い、抗HIV薬を飲めない人達。

彼らと僕との違いは。
日本人であるか。

そうでないか。

たったそれだけ。

資本力や国力、そんな言葉だけで片付けてしまうには、あまりに易い。

外国に憧れて、年に何回も行く人がいた。
彼は僕より年が二まわり弱ほど離れていた。
長く生きてきて、日本という国が嫌になり、自分にはその贔屓にしている国が合っているんだと言っていた。
人も良くて、衛生的ではないけれど、そんな雰囲気も好きだと。

いつかお金を貯めて、定年後、そっちで暮らしたいとも。

それを聞いた時、思わず返してしまった言葉。

でも、あなたは日本人だよね。
世界中何処に行っても日本人だ。

さらに続けた。

僕は、自分と同じ日本人に傷つけられたような事もあるけれど、それでも救ってくれたのもまた日本人だから‥。そう思ってる。

そういうとその人は言った。
その国に行くことで逃げていたのかもしれない。
ありがとう、と。

僕には外国の人だから、どうという考え方はあまりない。
昔、10代の頃僕のことを買ってくれたお客さんの中には外国の人達もいた。

だから、日本人であろうがそうでなかろうが、することや僕のような人間に対して抱く気持ちに大差はないなと思っていたからだ。

でもそれを始めたのは、お金を稼ぐ目的ではなく、親のような愛情を求める為。
それと自らを壊す為。というのが目的だったから、何処も長くは続かなかった。

それでも得られた少しのお金。今の自分が思うには、その年頃では不釣り合いな金額で、泊まり歩き、また壊し続けた。
そういう感覚を味わいたかったから。

そんな昔の事もその人には話していた。

子供の頃のことも、街で救われたような事も。
だから、ありがとうという言葉が出たのかもしれない。

僕の飲んでいる今の薬、毎日飲まなくてはいけないこの薬。

みんなの払った税金が投入されている。

ここでも、僕は救われている。

去年、命の線引き。という文章を書いたあの時の気持ちは。

今も全くかわらない。

みのる

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