陽性者と家族の日記

ありたい未来を実現できるかは、自分次第。

HIVに感染していることを相手に伝えることは、簡単なことではありません。

2017年2月1日。陽性という結果を伝えてくれた若い男性医師に感染のきっかけを問われ「男性との性的接触」と答えたことが、人生初の「カミングアウト」でした。正直に言って抵抗はありましたが、事実と異なる答えで支障がない質問は存在しないので、その瞬間は真実を伝えることに徹しました。

告知を受けた当日、その足で当時付き合っていた人のもとへ向かいました。「HIVに感染していることが分かった」と伝えるために。大事な人を守るために感染の事実を伝えることは当然だと思っていましたので、迷いはありませんでした。

数日後、今も通院している拠点病院へ紹介状を持っていきました。そこでも医師と看護師に感染のきっかけを「カミングアウト」しました。このときは自分でも驚くくらい何のためらいもなく自分のセクシュアリティについてスラスラ話せたことを覚えています。男性とセックスしてHIVに感染しましたが、皮肉にもそのHIVにゲイは恥ずべきことではないと気づかされました。

その後の通院で、家族の誰かに「カミングアウト」することを検討してほしいと主治医より伝えられました。ここでのカミングアウトとは、感染しているという事実に関してのみを指しています。数段ハードルが上がったカミングアウトにものすごく迷いましたが、今は「家族には言わない」と決めています。親や兄弟のことを思ってなのか、家族から否定されるのが怖いからなのかは自分でもわからないけど。

しばらくカミングアウトとは無縁の日々を送ってきましたが、最近、好意を抱く人がいて、その人にどう伝えようか悩んでいます。今後関係をより進展させたいなら伝えるべきだし、伝えられないなら終わらせよう。けど、伝えたところで関係がより進展するどころか終わるかもしれないな、などといろいろ考えてはみますが、「伝えられた相手はどう思うか」という視点がないことにはカミングアウトしてもうまくいくはずがありません。これまでカミングアウトしてきた相手は、僕が何を言おうとしているかある程度想像できる人たちです。僕が今度伝えたい相手は、まさか僕がHIVに感染しているなんて思ってもみないでしょう。

言わないで諦めるより、受け入れてもらえるように話して気持ちを伝えたほうがいいと思う――ある陽性の先輩から背中を押してもらえました。僕がいますべきことは、彼が僕から感染の事実を伝えられたときに、その現実を受け入れやすく伝える方法を考えたり受け入れやすい環境をつくることであって、伝えたことで予想されるマイナスの影響を嘆いていても前には進まないのです。もう悩むのはこれでおしまい。ありたい未来を実現できるかは、自分次第。

鳥前 進

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