DHHSによるHIV感染者のためのCOVID-19に関する暫定ガイダンス(日本語仮訳)
HIV感染者のためのCOVID-19に関する暫定ガイダンス
(原題:DHHS (March 20, 2020) Interim Guidance for COVID-19 and Persons with HIV)
最終更新日:2020年3月20日。最終レビュー:2020年3月20日
この暫定ガイダンスでは、米国のHIV感染者と医療提供者が、COVID-19に関して特に気を付けるべき事項について概説しています。COVID-19に関する情報とデータは日々急速に変化しています。このガイダンスでは気を付けるべき一般的な情報が書かれていますが、医療提供者においては、COVID-19に関するより専門的な推奨・勧告について、最新の情報を参照してください。
すべてのHIV感染者のためのガイダンス
- これまでの報告によると、60歳以上の人や糖尿病や高血圧、心血管疾患、肺疾患のある人は、SARS-CoV-2というウイルスによって引き起こされるCOVID-19感染症に罹患した場合、生命を脅かす重症化リスクが非常に高くなっています。
- これまでに入手可能であった限られた情報では、HIV感染者がCOVID-19に罹患した場合、その臨床経過がHIV非感染者と異なるということを示すデータはありません。効果的な多剤抗レトロウイルス療法(ART)が入手可能となる以前は、進行したHIV感染症の患者(例えばCD4細胞数<200/mm(3))は、他の呼吸器感染症を合併するリスクが高い人々でした。同様のことがCOVID-19にも当てはまるかどうかは、まだよくわかっていません。
- HIV感染者の中には、COVID-19の重症化リスクを高める他の併存疾患(心血管疾患や肺疾患など)を持っている人もいます。喫煙習慣も病気がより重篤化するリスクです。
- したがって、今後詳細なことが分かるようになるまで、すべてのHIV感染者、特に免疫不全が進行したHIV感染者やウイルスが十分にコントロールされていないHIV感染者は、より注意を払う必要があります。
- HIV感染者が必要なARTおよびすべての併用薬を入手し続けることができるように、あらゆる努力を払う必要があります。
- インフルエンザワクチンと肺炎球菌ワクチンを接種し、予防接種歴を最新の状態に更新しておく必要があります。
- HIV感染者は、社会的距離の確保(social distancing、訳注;感染リスクを減らすために他の人と一定の距離をとり接触機会を減らすこと)や適切な手指衛生の実施など、COVID-19の予防に関する米国疾病管理予防センター(CDC)の推奨・勧告(recommendations of the U.S. Centers for Disease Control and Prevention (CDC) to prevent COVID-19)に従う必要があります。これらの推奨事項は定期的に更新されます。
- 小児科医療従事者向けのHIV感染児のCOVID-19予防に関する情報、および一般の人々を対象にした情報は、CDCから入手できます。
- CDCでは、妊娠中の女性に向けたCOVID-19の予防に関する情報も提供しています。
抗レトロウイルス薬治療
HIV感染者がすべきこと:
- 少なくとも30日分、できれば90日分の抗レトロウイルス薬(ARV)およびその他の医薬品を、手元に確保しておいてください。
- もし可能であれば、メールでの処方に変更できないかどうか、薬剤師や医療従事者に相談してください。(訳注:現時点で日本ではメールでの処方は認められていません)
- 近々内服レジメンの切り替えを予定していた人は、頻回な医療機関受診とフォローアップを受けることが可能になるまで、レジメンの変更を先延ばしにすることを検討してください。
- ロピナビル/リトナビル(LPV / r、カレトラ®)がCOVID-19に対する適応外治療薬として使用されており、現在世界的に臨床試験が進行中です。もし現在すでにARVレジメンの一部としてプロテアーゼ阻害剤(PI)を服用中でない場合には、臨床試験の枠組みでHIV専門医が指示した場合を除き、COVID-19の予防または治療するといった目的で、PIを含むレジメンに変更すべきではありません。入院治療が必要となった199人のCOVID-19患者を、14日間のLPV / rと標準治療または標準治療のみのいずれかに無作為に割り付けた小規模な非盲検試験では、臨床的改善または死亡までの時間に関して、2つのグループ間に統計的に有意な差は認められませんでした。(1)
HIVケア受療のための医療機関受診:
- HIV感染者とケアを提供する医療従事者は、現時点でHIV医療機関を予約どおりに受診すべきか否かについて、リスクとベネフィットをよく比較検討する必要があります。その際、地域でどのくらいCOVID-19が流行しているか、受診によって得られる健康ニーズ、患者のHIV感染症の状態(CD4細胞数、HIVウイルス量など)、全体的な健康状態といった要素をよく検討し判断されるべきです。
- 緊急でない通常の定期受診やアドヒアランスカウンセリングであれば、電話受診またはインターネット診療といった方法も、直接対面診療の代替手段となりうる場合もあります。
- HIVウイルス量が抑制され、健康状態が安定している人については、定期通院治療を可能な限り延期したほうがよいでしょう。
オピオイド治療プログラムに参加しているHIV感染者:
オピオイド治療プログラム(OTP)を受けているHIV感染者を診療している臨床医は、薬物乱用・精神衛生管理庁(SAMHSA)Webサイトに掲載されている、オピオイド治療の中断回避に関する最新のガイダンスを参照する必要があります。各州のメサドン管理部局は管轄区域におけるOTPを規制する責任も負っており、追加のガイダンスを示している場合があります。
特定のポピュレーションに対するガイダンス
妊娠中のHIV感染者:
- 現在までのところ、COVID-19に感染した人の妊娠、およびその後の母体の転帰に関する情報はほとんどありません。
- 妊娠による免疫学的および生理学的変化により、一般的に妊娠中の女性はウイルス性の呼吸器感染症に罹りやすくなることが知られており、COVID-19でも同様のことが推測されます。他のコロナウイルス感染症で見られたように、COVID-19の罹患率、重症化率、死亡率のリスクは、一般の人と比べて妊娠中の女性の方が大きい可能性はあります。(2)
- 現在までに得られているデータは限られていますが、妊娠中の女性がCOVID-19感染症に罹患しやすい、または妊娠中の女性がCOVID-19に罹った場合により重症化しやすいことを示すデータは今のところありません。(6,7) 胎児仮死や早産といった有害な妊娠転帰は、COVID-19感染症に罹った少数の妊婦では認められており、同様の現象はSARSおよびMERS感染症でもこれまでに報告されています。(3-5)
- 少数のCOVID-19感染妊婦を観察した調査結果では、COVID-19の垂直伝播のエビデンスは認められませんでした。しかしながら、これまでに少なくとも1例のCOVID-19感染した新生児の症例が報告されています(7-9)
- 妊娠とCOVID-19に関する情報は、CDC、母体胎児医学会、および米国産婦人科学会から入手できます。
HIVに感染している子供:
- 現時点で入手可能な限られたデータからは、子どもは高齢者と比べるとCOVID-19感染症に罹った場合に重症化する可能性は低いようです。(10-12) しかしながらCOVID-19に罹った場合により重篤となるリスクが高い子供の亜集団が存在する可能性があります。COVID-19以外のコロナウイルスに感染した小児の研究では、年齢が低い、呼吸器系の基礎疾患がある、および免疫不全状態であることが、予後の重症化と関連があったと報告されています。(13)
- HIVに感染している乳幼児および小児は、インフルエンザワクチンおよび肺炎球菌ワクチンを含むすべての規定の予防接種を接種し、予防接種歴を最新の状態に更新しておく必要があります。詳細はHIVに曝露またはHIVに感染した子どもにおける日和見感染症の予防および治療のためのガイドラインに記載された、HIVに感染した子どものためのワクチンスケジュールを参照してください。
SARS-CoV-2に曝露したことにより自己隔離または検疫をおこなうHIV感染者に関するガイダンス
医療従事者がすべきこと:
- 患者がすべての薬を十分に入手出来ていることを確認し、必要な際には追加処方を行い迅速に対応します。
- 患者にCOVID-19関連症状が出現した場合に備え、COVID-19を治療する医療機関への転院・転送の可能性等を含んだ患者評価計画を立案しておきます。
HIV感染者がすべきこと:
- 通院する医療機関の医療従事者に連絡をとり、自己隔離または検疫の状態になったことを報告してください。
- 特に重要なこととして、ARV薬やその他必須薬がどのくらい手元に残っているかを医療者に伝えてください。
発熱または呼吸器症状があり診察を希望するHIV感染者のためのガイダンス
医療従事者がすべきこと:
- 感染管理、トリアージ、診断、およびマネージメントに関するCDCの推奨・勧告ならびに州・各地域の保健当局のガイダンスに従ってください。
HIV感染者がすべきこと:
- CDCの推奨・勧告にある症状に関する項目をよくご覧ください。
- 発熱や症咳、呼吸困難などの症状が出現した場合は、医療機関に相談する必要があります。
- いきなり医療機関に受診せず、まずは事前に医療機関に電話で連絡してください。
- 医療機関を受診する際には呼吸器衛生・手指衛生と咳エチケットを励行し、到着したらすぐにフェイスマスクを装着してください。
- 事前の電話をかけずに診療所や救急施設に行った場合は、到着したらすぐに受付スタッフに連絡し、医療機関内でのCOVID-19感染拡散を防ぐための対策を講じる必要があります。具体的には、患者にマスク装着することや、他の人から隔離された部屋へ迅速に入室してもらうことなどの対応が含まれます。
COVID-19を発症したHIV感染者をマネージメントするためのガイダンス
入院が必要でない場合に、HIV感染者がすべきこと:
- 症状緩和のための対症療法をおこない、自宅内で療養します。
- 医療者と密接な連絡をとり、症状が進行した場合(例:2日以上の持続的な発熱、新しい息切れ)には報告します。
- 処方どおりにARV療法と他の薬の服用を継続します。
HIV感染者が入院となった場合:
- ARTを継続する必要があります。ARV薬が病院の処方薬リストにない場合は、患者の家にある備蓄薬を持参し投与します。
- ARV薬を他剤に代替することは避けるべきです。どうしても代替せざるを得ない場合は、臨床医は米国保健福祉省(HHS)による被災地におけるHIV感染者のケアに関するガイドラインに書かれている、切り替え可能なARV薬に関する推奨事項を参照できます。
- ARVレジメンの一部として2週間ごとのイバリズマブ(IBA)の静脈内注射(IV)をしている患者の場合、主治医は患者が入院している病院の担当医と相談して、中断なくこの薬の投与を継続するよう調整する必要があります。
- レジメンの一部として臨床試験中のARV薬を服用している患者については、可能であれば薬を継続するよう臨床試験研究チームと調整する必要があります。
- 患者が危篤状態に陥り経管栄養が必要となった場合には、液体製剤で使用できるARV薬と、すべてではないものの一部の錠剤では粉砕して投与できる薬剤があります。臨床医はHIV専門医および/または薬剤師に相談して、経管管理下の患者が効果的なARVレジメンを継続投与されるよう最善の方法を見極める必要があります。情報は、医薬品ラベルまたはトロント総合病院免疫不全クリニックのサイトから入手できます。
COVID-19の治験薬または適応外治療を受ける場合:
- 現在のところ、COVID-19に対する承認された治療法はありません。COVID-19に対する治療効果を評価するために、いくつかの治験薬および既上市薬の臨床試験が進行中です。また、コンパッショネート使用(訳注:基本的に生命に関わる重篤な疾患や身体障害を引き起こすおそれのある疾患を有する患者の救済を目的として、代替療法がない等の限定的状況において未承認薬の人道的使用を認める欧米の制度)や適応外使用により投与可能な場合もあります。
- COVID-19治療を受けている患者の場合、臨床医はCOVID-19治療と患者のARV療法およびその他の薬物との薬物相互作用の可能性を評価する必要があります。薬剤相互作用の可能性に関する情報は、薬の添付文書、薬物相互作用に関する情報リソース、臨床試験プロトコール、または臨床試験について書かれた説明書などに書かれている場合があります。
- 利用可能な場合、臨床医はCOVID-19に対する治療の安全性と有効性を評価する臨床試験に患者を登録することを検討するかもしれません。HIVに感染した人々をこれらの臨床試験の対象から除外すべきではありません。Clinicaltrials.govは、COVID-19の有効な治療法を調べる研究試験を見つけるのに役立つリソースです。
HIVを診療する臨床医向けのその他のガイダンス
- 一部のメディケイドおよびメディケアプログラム、民間健康保険会社、およびエイズ治療薬支援プログラム(ADAP)には、90日分を越えたARV治療薬およびその他の薬を入手できないようにする処方制限があります。COVID-19がアウトブレイクしている最中においては、臨床医は処方日数制限を解除するよう保険者に依頼する必要があります。ADAPもまた、患者に90日分の治療薬を処方する必要があります。
- HIVに感染している人は、危機的状態に陥ったり経済的に不安定となっている際には、食料、住居、移動、育児に関する追加的支援が必要になる場合があります。患者がケアへ繋がり継続的にARV治療を受けることができるよう、臨床医は患者が追加的な社会的支援を必要としていないかどうかを評価し、可能であればナビゲーターサービス(訳注:HIV感染者のケアへの繋がり、治療継続等を支援するためのソーシャルサポート)を含むリソースに繋がるために出来る限り努める必要があります。
- この危機的状態の間、社会的距離の確保(social distancing)と隔離は、HIV感染者のメンタルヘルスとアルコールや薬物の問題を悪化させる可能性があります。臨床医は、これらの患者の懸念を評価・対処し、必要に応じて、可能ならインターネットなどを利用した相談の機会を提供する必要があります。
- 電話診療を含む遠隔医療の選択肢は、定期通院患者やあるいは症状がでている患者のトリアージのために、検討されるべきです。
成人、妊娠中、および小児患者に対するARV治療に関する情報、および日和見感染症の予防と治療に関する推奨・勧告は、HIV / AIDSの診療ガイドラインに記載されています。
CDCのWebサイトでは、HIV感染者を対象にしたCOVID-19に関する情報を提供しています。
この暫定ガイダンスは、エイズ研究諮問委員会の以下のワーキンググループによって作成されました。
- 成人および青年に対する抗レトロウイルスガイドラインに関するHHSパネル
- HIVに感染している子供に対する抗レトロウイルス療法と医療マネージメントに関するHHSパネル
- HIV感染妊婦の治療と周産期感染予防に関するHHSパネル
- 成人および青年HIV感染者における日和見感染の予防と治療のガイドラインに関するHHSパネル
- HIVに暴露あるいはHIVに感染した子供の日和見感染に関するHHSパネル
参照資料
- Cao B, Wang Y, Wen D, et al. A trial of lopinavir-ritonavir in adults hospitalized with severe Covid-19. N Engl J Med. 2020. Available at: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/32187464.
- Society for Maternal-Fetal Medicine, Dotters-Katz S, Hughes BL. Coronavirus (COVID-19) and Pregnancy: What Maternal-Fetal Medicine Subspecialists Need to Know. 2020. Available at: https://s3.amazonaws.com/cdn.smfm.org/media/2267/COVID19-_updated_3-17-20_PDF.pdf.
- Siston AM, Rasmussen SA, Honein MA, et al. Pandemic 2009 influenza A(H1N1) virus illness among pregnant women in the United States. JAMA. 2010;303(15):1517-1525. Available at: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20407061.
- Alfaraj SH, Al-Tawfiq JA, Memish ZA. Middle East Respiratory Syndrome Coronavirus (MERS-CoV) infection during pregnancy: Report of two cases & review of the literature. J Microbiol Immunol Infect. 2019;52(3):501-503. Available at: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/29907538.
- Wong SF, Chow KM, Leung TN, et al. Pregnancy and perinatal outcomes of women with severe acute respiratory syndrome. Am J Obstet Gynecol. 2004;191(1):292-297. Available at: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15295381.
- Liu Y, Chen H, Tang K, Guo Y. Clinical manifestations and outcome of SARS-CoV-2 infection during pregnancy. J Infect. 2020. Available at: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/32145216.
- Chen H, Guo J, Wang C, et al. Clinical characteristics and intrauterine vertical transmission potential of COVID-19 infection in nine pregnant women: a retrospective review of medical records. Lancet. 2020;395(10226):809-815. Available at: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/32151335.
- Li Y, Zhao R, Zheng S, et al. Lack of vertical transmission of Severe Acute Respiratory Syndrome Coronavirus 2, China. Emerg Infect Dis. 2020;26(6). Available at: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/32134381.
- Wang S, Guo L, Chen L, et al. A case report of neonatal COVID-19 infection in China. Clin Infect Dis. 2020. Available at: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/32161941.
- Dong Y, Mo X, Hu Y, et al. Epidemiological characteristics of 2,143 pediatric patients with 2019 coronavirus disease in China. Pediatrics. 2020. Available at: https://pediatrics.aappublications.org/content/pediatrics/early/2020/03/16/peds.2020-0702.full.pdf.
- Cruz AZ, S. COVID-19 in children: initial characterization of pediatric disease. Pediatrics. 2020. Available at: https://pediatrics.aappublications.org/content/pediatrics/early/2020/03/16/peds.2020-0834.full.pdf.
- Shen K, Yang Y, Wang T, et al. Diagnosis, treatment, and prevention of 2019 novel coronavirus infection in children: experts’ consensus statement. World J Pediatr. 2020. Available at: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/32034659.
- Ogimi C, Englund JA, Bradford MC, Qin X, Boeckh M, Waghmare A. Characteristics and outcomes of coronavirus infection in children: The role of viral factors and an immunocompromised state. J Pediatric Infect Dis Soc. 2019;8(1):21-28. Available at: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/29447395.
お知らせ「HIVと新型コロナ情報関連情報など」(随時更新中)には、ほかにもさまざな情報が掲載されています。