調査や活動から見えたこと

HIV感染症は、医療の進歩により、感染しても症状を抑えながら生活をすることが可能な病気となっています。ぷれいす東京スタッフらが受託する厚生労働科学研究費補助金による研究班では、2003年度より5年に一度、HIV陽性者の生活実態調査を行ってきました(第1回調査は研究協力者として実施)。

HIV陽性者の服薬・通院

HIV陽性者は、抗HIV薬の定期的な服用により体調を安定させ、HIV感染前とほとんど変わらない生活を送ることができます。2013年実施の調査で、抗HIV薬を服用している人の服用回数は1日1回がもっとも多く、56.6%。10年前の調査では2.3%、5年前は47.1%の人が1日1回の服用であったことから、服用回数による服薬の負担は年々小さくなっていることがうかがえます。
通院頻度も、2013年には73.0%の人が2~3ヶ月に一度であると回答しています。10年前の37.2%と比べて大幅な増加で、通院回数からも、HIV陽性者の健康状態がより安定してきている傾向がわかります。

HIV陽性者の就労

働くことについてどのように考えているかという設問に対し、「とくに制限しないで働きたい」と答えたHIV陽性者は2013年には58.7%で、10年前の37.2%よりその割合は増加しています。
一方で、就労しているHIV陽性者のうち、「知らない間に病名が知られる不安」を感じている人が68.7%、「病名を隠すことの精神的負担」を感じている人が65.1%の割合でいることが、同年の調査でわかっています。
実際に職場の誰かしらにHIV陽性であることを打ち明けている人の割合は21.0%。打ち明けた相手は、直属の上司がもっとも多く11.8%。雇用主・役員等の管理職の9.4%、同僚・部下の8.7%が続きます。

HIV陽性者をとりまく環境

HIV診療へのアクセスが整備されていることから、HIV陽性者から見て、日本のエイズ対策のうち医療体制への評価は高くなっています。その一方、学校や公的機関などでのHIV/エイズやセクシュアル・マイノリティへの偏見などへの対策への評価は極めて低く、いまだ残された社会の課題が浮かび上がっています(2013年)。
ぷれいす東京に寄せられるHIV陽性者からの相談からも、HIVとともに生きる上での課題はHIV感染症の治療よりも就労などの生活問題、次いでメンタルヘルスの課題などが多いという傾向が見えます。

調査に協力してくださった全国のHIV陽性者1,469人の声をもとにして作成したパンフレット「職場とHIV/エイズ―HIV治療のこの10 年の変化(2003→2013)―」を、HIV陽性者と周囲の人にとって働きやすい環境作りのためにお役立てください。

 

 

調査の概要

第1回調査(2003年度)
厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事業「HIV感染症の医療体制の整備に関する研究」(主任研究者:木村哲)
2003年12月~2004年5月に国立国際医療センター/エイズ治療・研究開発センターと4地域のエイズ治療ブロック拠点病院の計5機関で、外来患者を対象に無記名自記式質問紙を医療者より配付。HIV陽性者自身が調査事務局へ郵送返信。配付754票、回収566票、回収率72.3%。

第2回調査(2008年度)
厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事業「地域におけるHIV陽性者等支援のための研究」(研究代表者:生島嗣)
2008年12月~2009年6月に国立国際医療センター/エイズ治療・研究開発センター他エイズ診療拠点病院の計33機関で、外来患者を対象に無記名自記式質問紙を医療者より配付。HIV陽性者自身が調査事務局へ郵送返信。配付1,203票、回収1,812票、回収率66.4%。

第3回A調査(2013年度) 第3回B調査(2013年度)
厚生労働科学研究費補助金エイズ対策政策研究事業「地域においてHIV陽性者等のメンタルヘルスを支援する研究」(研究代表者:樽井正義)
A調査:2013年7月~12月に国立国際医療研究センター/エイズ治療・研究開発センターと、全国8地域のエイズ治療ブロック拠点病院の計9機関で、外来患者を対象に無記名自記式質問紙を医療者より配付。HIV陽性者自身が調査事務局へ郵送返信。配付1,786票、回収1,100票、回収率61.6%。
B調査:2013年8月~2014年4月に中核拠点病院等計22機関で、外来患者を対象に無記名自記式質問紙を医療者より配布。HIV陽性者自身が調査事務局へ郵送返信。配付687票、回収369票、回収率53.7%。
※本文中のデータは、A調査とB調査を合わせた1,469票のデータで作成しました。

地域におけるHIV陽性者等支援のためのウェブサイトで公開している研究報告書もあわせてご覧ください。