陽性者と家族の日記

ゲイであることも、HIVキャリアであることも、誰にも非難されることではない

「ノボルのお墓参りに一緒に行きませんか」
先月、ノボル(仮名)のお姉さんから2年ぶりに連絡があった。どこかで生きていてほしい、これまで秘密にしてきた「現実」ときちんと向き合ってほしい。そう願っていたが、お姉さんの優しいお誘いは、同時に残酷な現実を僕に知らしめた。

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ノボルは僕の恋人だった。僕とは正反対で、ユーモアにあふれ、思い立ったらすぐに行動するタイプの人。そんな彼にも、誰にも打ち明けられない秘密が2つあった。一つは、僕も世間に対して秘密にしているセクシャリティ。そしてもう一つの秘密は、僕の誕生日を祝ってくれた夜に、僕も気づかぬうちに望まない形で「共有」することになった。

秘密を共有してから2週間が経過したころ、僕の身体に異変が起きた。1週間近く続く40度近い発熱、激しいのどの痛み、関節の痛み、2回実施したインフルエンザの検査は陰性――僕はノボルと距離を置くことにした。そして2カ月後、僕は都内で抗体検査を受け、ノボルの秘密を知った。秘密を知ったその夜、僕はノボルのもとを尋ねた。そして、別れることにした。

別れた後の僕は、すぐに通院を開始した。同じ秘密を抱えた人たちとも積極的に意見交換をし、少しずつ前に進む努力をした。同時に、前に進めずに一人で長い年月もの間「秘密」を抱えてきたノボルのことを想った。どうやったら彼を現実と向き合わせることができるだろうかと――別れてから半年後、「ノボルが自ら命を絶った」とノボルのお姉さんから連絡が入った。

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待ち合わせの場所で、ノボルのお姉さんはお花を携えて僕を待っていた。僕は「亡くなった」と聞いただけで、お葬式にも呼ばれなかったし、お墓の場所も聞いていなかったので、ノボルがこの世からいなくなったなどということを信じ切れずにいた。しかし、目の前の女性の出で立ちは、「私が嘘をつくわけがない」と言わんばかりに、信じきれない現実を僕に突き付けてきた。

駅からタクシーに揺られ、都心らしいこじんまりとした墓地についた。一目で新しいものだとわかるほど輝きを放つ石の下でノボルは独り眠っていた。僕はノボルは生前に置かれた状況を思い出した。僕と秘密を共有したものの、ノボルの考えは僕には受け入れられず別れることになった。家族には秘密が2つとも明るみになり、もはやどこにも居場所はなかった。そして亡くなった後も、一人の若い男性には不釣り合いなほど立派なお墓に「葬られている」――

涙が頬を伝わるのを感じた。頬を手でぬぐう。お姉さんのほうを見ると、何かを話し始めようとしたけれど、嗚咽が止まらないほど激しく泣いてしまい、言葉にならなかった。後で話を聞いたが、ノボルが納骨されてから誰もお墓参りに来ていないそうだ。納骨に立ち会わなかったお姉さんにとって、今回が初めてのお墓参りだった。

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ノボルへ。君がほかの誰かからHIVをもらったと知ったときにどんな気持ちだったか、僕には分かります。君が僕にHIVを移したのは、ただ分かってくれる人が欲しかったのだということも、僕には分かります。誰かにHIVを移すことでしか自分の気持ちを共有できない状況に置かれていた君のことを、僕は同情します。ゲイであることも、HIVキャリアであることも、誰にも非難されることではないのに、「無理解」な「世間」に「殺され」た君の死を無駄にしたくなくて、君との出来事をここに公表することにしました。また今度、お墓参りに行きます。

さしみ

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