陽性者と家族の日記

君の無念を晴らすためなのか、僕の悔しさをぶつけているだけなのか。

その人は、昨今の新型コロナウイルス感染症が世界的な広がりを見せているなか、感染症の恐ろしさや、感染した人たちへの差別を知ったといいます。
その人は、その人の息子が感染したHIVについて改めて勉強し、HIVに感染した人たちへの差別を知り、そして同性愛者を取り巻く環境について改めて考えたといいます。
その人は、その人の息子が僕にHIVをうつしたことや、HIVに感染した僕に対して向けられた過去の言動について謝罪したいといいます。

僕は、その人がHIVや同性愛を知ろうとしてくれたことをとてもうれしく思います。
僕は、その人が自身の言動に過ちがあったことに気づいてくれて救われた気がしました。
しかし、僕は、その人の「謝罪」に、息子さんの居場所はどこにもないような気がしてならなかったのです。

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僕は、あなたの息子さんと別れた後、一切の連絡を絶って、自分だけがHIVと向き合うことを「選んだ」ことに後悔しているのです。
僕は、現実を受け入れられずもがいていたアイツを容赦なく切り捨てた過去の自分が悔しくて悔しくてたまらないのです。
だから、あなたが僕に、過去の出来事をいくら謝っても意味がないのです。

申し訳ないと思うのなら、その気持ちをあなたの息子さんに伝えてあげてください。
彼はきっと、自ら命を絶つ前に味わった絶望を誰にも理解されることなく、今ももがいているでしょうから。

鳥前 進

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