陽性者と家族の日記

無機質な墓石の下でまた独りぼっち

4年前の8月1日に自ら命を絶った元彼のお墓参りに、彼のお姉さんと一緒に行ってきた。

お姉さんは終始はつらつとしていて、2年前の初めてのお墓参りで人目を憚らず泣き崩れた人と同じ人とは思えなかった。手際良く支度をする様子を見ると、ここに何度も来ているのだろうと容易に想像された。お線香をあげ、手を合わせると、声は聞こえなかったけど、唇が「バカヤロウ」と紡いだのが読み取れた。

一方で、僕は、そんなお姉さんの横で、無機質な墓石に視線を落とすだけで、毎年の彼の命日で毎回そうだったように、今回もかけてあげる言葉が見つからなかった。

「遠くに引っ越しちゃうから、緊急事態宣言が出ているけど、来たかったのよ、あなたと一緒に。」お墓参りの帰り道で、お姉さんはそう語った。

どこへ、どんな理由で引っ越すのかは分からない。お母さまも一緒なのか、そもそもお母さまが(東京に)いるのかも、病気で亡くなったお父さまがどこで眠っておられるのかも分からない。僕が何を期待されているのかも分かるようで分からない。ハッキリしていたのは、お姉さんが“前に進む”なか、彼と僕は4年前の8月1日から時が止まったままで、彼は無機質な墓石の下でまた独りぼっちになってしまう、ということだった。

鳥前 進

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