陽性者と家族の日記

スクーター

もう一週間近く前のことになってしまうが、世間から見ると超早い「夏休み」をとって実家に数日帰省していた。
こないだの日記にも書いたと思うが自分の仕事は季節的変動が激しく、今は暇な時期で、8月の方が却ってやることが多かったりするので休みをもらって実家で車の運転の練習でもすることにした。

久々にハンドルを握って3日目にはもう随分慣れてきたので父母と一緒に近くの陶磁器の里へドライブに行った。
後ろの席から母が話し掛ける。
「・・・蔵人はいつ免許更新したの?」
蔵「去年だよ」
母「5年でしょ?」
蔵「そうだよ」
母「・・・お母さんはもうバイクの免許は更新やめようかと思うの」
蔵「そう?身分証明とかに必要ない?」
母「別に・・健康保険証があるしね。スクーターはもう全然乗らないし」

母は自分が中学生の頃から20年以上生命保険会社の外交員をやっていた。
父はその頃から病気がちになり多くの収入が期待できない中、姉・兄・自分を高校・大学へ進学上京させるために事実上「大黒柱」として働いてきた。
毎日昼はスクーターに乗って得意先を廻って、夕方帰ってきてからは家族の食事を作りながら。
数年前に定年退職してからは外出もめっきり減り身体も随分衰えてきているようだが、それまでの毎日を見てきている自分には母に好きなだけゆっくりしてもらうのが一番のようにも思えるので特に何の口出しもしてはいない。

「お母さんね、夢の中でばかり、スクーターを運転しているわ・・・」

一言、ぽつりとつぶやいた。
母はまだ、夢の中で仕事をしていた。
夢の中でも肩の荷をおろせるのは何時の事だろう。

蔵人

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