陽性者と家族の日記

ある誘惑

むかし一緒に遊んでいた仲間から、久しぶりの電話。
脱ドラが手に入ったんで、ホテルで一緒に試さないか?という
お誘いだった。

いまの自分は、暗がりじゃなく太陽光の下で遊ぶコトに夢中だし、
キメてハジケるよりもダンスのターンがキメられる方が楽しく
なっちゃって、と断った。
相手は低い声で、優等生になったねえ、つまんねえと笑った。
こちらから今度ゆっくりお茶でも、と言いかけたところで、
素っ気なく電話を切られた。
本当の気持ちを言ったのに、なぜだかこめかみに冷や汗をかいた。
何かを失ったような気がしたが、不思議なくらい後悔はなかった。
友だちならまた作ればいい。それだけの話。

健康であるということは、簡単なようでいて、やはり難しい。
自分以外の「何か」や「誰か」に素直に感謝の気持を伝えられる
力みのない状態であると同時に、自分なりに一生懸命に築いてきた
大切なものを壊されまいと、とっさに防衛できる敏捷さも要求されるからだ。
僕には子供がいないが、今回のことで、わが子を守る親の本能が
どういうものなのか、ほんの少しだけ理解できたような気がした。

リセットして再起動にもう一度時間を費やすのはもったいない。
今まで楽しさに気づかなかったゲームの種類は山ほど。
制限時間ギリギリまで粘って、できればその全部を制覇してみたい、
というのが、現在の僕の考え方であり、生き方。
今さら同じゲームのリプレイなんて退屈だ。

僕は根っからの欲ばりだけど、そんな自分の性格を
こんな時にはちょっとは好きになれるかも。

なぎさのペンギン

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