陽性者と家族の日記

静かな告白

 
 8月31日、自分の病気について母親に告げた。

 僕の父は20年前に病気で他界しているが、それから今に至るまで
 母は一生懸命がんばってきた。
 がんばりすぎて、鬱が悪化してしまった時期が何度もあった。
 こうした事情があって、僕は家族の中で母親にだけは病気のことを黙ってきた。
 彼女が亡くなる最後の日まで隠していようと思った。

 「たぶん…とっくの昔に気づいているはず」
 ずいぶん前から自分の心がそう叫んでいた。
 80歳までもうすぐ。一緒にいられるのはいつまで?
 「言わなかったら、沈黙を続けた自分を悔やむかも知れない」
 夏休み最後の日、僕は決心して話を切り出した。

 カミングアウトというはやり言葉は使わない。
 僕はただの親不孝な息子で、これは愚かな告白だ。
 息子から病気を告げられて悲しまない母親なんているもんか。
 
 母親は「実は知っていた」と遠目で眺めるように、表情を変えずに言った。
 僕は「これからも元気。だから心配しないで」と言った。
 告白は5分で終わり、あとは普通の世間話に戻った。
 涙も笑顔も怒鳴り声もない、静かなる告白。

 すべては「ひらめき」というタイミングが導いてくれたおかげ。
 今はただ…そのことに深く感謝をしている。

 
 

なぎさのペンギン

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