陽性者と家族の日記

言えなかったひとこと

この間の夜、お気に入りのDJがプレイしているクラブに行ったら、
むかしハッテン場で一緒に遊んだことのある知り合いに声をかけられた。

「久しぶり~、元気?」
「いや~、実は病気になっちゃって」
聞けば体重が10キロ以上落ちたという。
正直言うと、声をかけられたとき、僕は彼が誰だか分らなかった。
以前の面影が消えうせ、別人のような容姿になっていた。

彼は自分の病気が何であるのかは明かさなかったし、
僕も自分の病気のことを明かさなかった。
そのあとしばらく、とりとめなく立ち話をしたが、
彼の表情はずっと穏やかなままだった。
昔は険しい表情をしていたが、目つきが優しくなっていて
彼の中にある本当の人柄を見たような気がした。

ハッテン場では、僕は彼を人間と思っていなかったのかも知れない。
たぶん彼も僕に対して同じように接していたのだと思う。
話をするだけで気が合う相手だって、もっと早く気がついておけば
よかった。

ふたりの間で交わすべき言葉は「ごめんなさい」だったのかも知れないし、
「おたがいさまだね」だったのかも知れない。
最後は「これからもお互いにがんばろう」って…

そう、最後まで言えなかったこのひとこと…今度会った時には言えるかな。

言わなきゃな。

なぎさのペンギン

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