たうとし、たふとし。
‥郊外にある繁華街の中にある、夜10時過ぎのマックの2階。
小学生の時の僕の居場所の一つだった。
塾が終わり、家に帰りたくなくて良く其処にいた。
たまにどこかのマンションの非常階段であったり。
その暗がりにいると心が落ち着く気がした。夜は好きだった。本来というものを見せなくて済む。
同時に何もつくる事なく。
自分に戻れるといった感覚も抱く事が出来た。
肩の荷が降りた気がして安らげた。
今もたまに、住んでいるマンションの外に面した非常階段で、そこから見渡せる街並みを煙草をくゆらせ、ゆっくり眺めながら。
色々な事を考えたり。感慨に耽ったりする。
大事な場所だ。
一抹の寂しさと、寂寥感と言うのかな、懐古すると共に沸き上がってくる。
今年の12月に入った辺りから。
この子供の頃の気持ちが、情景と共に頭のなかにふと甦る事が多々あった。
あの時感じていた寂しさと同種のものを感じていたからだろうか。
毎日の様にいたパートナーは、もう毎日居ることが出来ない。
どうしようもないことだった。
内部要因でなく、外部要因によって、この事態が引き起こされるなんて途方に暮れるしかなかった。
でも、それでも。
彼の気遣いに甘えて。
僕はまだここにいる。帰ってくる数こそ少なくなってしまっても。
ここに居て、たまに帰ってくる彼を待ってごはんを作り、洗濯をしたり、掃除をして待っている。
‥パートナーのお父さんが亡くなってから。
もう半年が経つ。
あまり良い父親じゃなかった。
一度か二度、呟くように聞かされた彼の父親像は。
酷いものだった。
絶対にしてはいけない事。
それを子供の頃の彼にした。
付き合いだしてから少し経ち、それを聞かされた時には、思わず殴りに行ってやろうかと思った。
それぐらいの事だった。
何故、十代の中頃に家を彼が飛び出して行ったのかもわかった。
亡くなったと、短い言葉で連絡があった時。
言葉を無くすと同時に。
胸中は些かのものかと思っていた。
憎む心と慕う心。
それらが混沌としていたに違いない。
かける言葉なんか見つからなかった。
ただ傍に居て、手のひらで、泣きじゃくる彼の二の腕の辺りを擦り続ける事しか出来なかった。
情けなかった。
何の為に言葉を大事にしようかと思ったんだろう。
世を渡る為の武器の一つにしようと思ってきたんだろう。
何のために磨いてきたんだろう。
情けなかった。
改めて自らの器量の無さを感じた。
立ちすくみ、携帯を片手で持ち。
二人の生活が終わる予感を感じた。
彼のお母さんは、一人で生きて行くことが出来ない人だから。
そして物凄く大事に思っている人だから。
天秤は、お母さんに傾く。
そんな人だから惹かれたし、良かった。
でも、今度はそれが裏目に出る。
相手は僕になる。
皮肉だ。
三人でどうにかして暮らせたら。
そう言われる。
でも。
彼のお母さんは僕を恨んでるんじゃないかと思う。
僕と暮らしてさえいなければ。
一緒に居さえすれば。お父さんは助かったかもしれないからだ。
彼は自分を責めている。
お母さんも自分を責めている。
その矛先の一端は。
おそらく僕にも向けられるであろう事を、様々な思いがぐるぐる巡る頭の中でぼんやり考えていた。
子供の頃に支えにしていたもの達を引っ張りだしてきて。
聴いたり、読んだり。
逃避も兼ねていたんだろう。
でも。
光は差し込んできた。
生きてやる。
何故だかそう思った。
守りたいものがある。
大事な人がいる。
大切な人達がいる。
こんな時でも支えてくれる人がいた。
親身に話を聞いて耳を傾けてくれる人がいた。
今、永く付き合いのある人達というのはそういう人達ばかりだ。
突っ張らなきゃ駄目だ。
脚をきちんと張り、坑う事をしなければ駄目だ。
大丈夫。今までやってきたんだから。
これからだってやっていける。
そう思えた。
そしてまた、この季節がやってきた。
置かれた状況は去年までと大きく違う。
けど。
また一緒に居ることを祝う事が出来る。
自分を強く持て。
そう助言してくれた人がいた。
同調することしきりだ。
失うものが何もなかった子供の頃とは違う。
光はあるんだ。
知恵も力もある。
そしてひょんなことから。
ある書簡から。
実親達と邂逅することも出来た。
失ったものは多かった。
本当に大きかった。
‥けど。
それより得たものの方が多く、大きい。
確固としてそう、断言したい。
そんな年だった。
だから。
メリークリスマス。
支えてくれた人へ。
そしてすべての人へ。