陽性者と家族の日記

Luminous

フリーアナウンサーで、歌舞伎俳優・市川海老蔵さんの妻、

小林麻央さんが 乳がんのため亡くなりました。

34才でした。

 

15年近く前になるのかな….

麻央さんがキャスターとして登場した、TV番組「めざましどようび」の初出演の回を

僕はリアルタイムで見ています。

当時はまだ女子大生で 初々しさはたっぷりだけど アナウンサーとしてはほぼズブの素人。

活舌もかなりあやしかったし、どうせ かわいい見た目を重視した起用なんだろうなあ…と

そんな程度の印象でしたが…

 

数年後、ニュース番組のキャスターに抜擢されたあたりから 驚くべき変化を見せました。

堂々としたたたずまい、大きな目を輝かせ まっすぐに相手を見つめる”まなざし”の威力。

珍しいことなんだけど…僕は 彼女に(一方的な)恋をしてしまったのですWW

 

もちろん、こんな魅力的な花が野原に放置されるわけもなく…

数年後、彼女は市川海老蔵さんと結婚。梨園の世界で、旦那さんを支える奥さんとして

新しい人生を踏み出しました。

2人のお子さんにも恵まれ、絵に描いたような幸福な生活を送っているとばかり思っていたのに…

 

昨年の今ごろ、夫の海老蔵さんが

「妻は乳がんを患っております。

容易に対処できない事態になっているので、メディアの方々に 彼女をそっとしておくよう

配慮をお願いいたします」

という趣旨の発表をしたときは 本当に驚きました。

 

でも、驚きはそれだけじゃなかった。

 

3か月後、彼女は同じ病気で苦しむ人たちを そして 病の陰に隠れがちな自分自身を

勇気づけるために”闘病ブログ”を始めたのです。

 

もちろん…自分の病気を公表して、病気とともに暮らす毎日の日常をつづったブログは

今はそれほど珍しいものではありません。

有名人、と言われる人たちの中にも…彼女以外にも何人かいますし、いわゆる”一般人”まで

含めたら 相当の数に上るでしょう。

(実名ではないにしろ、この「陽性者と家族の日記」も ある意味では同じ類に入るものだと

僕は考えています)

 

しかし、麻央さんのブログがその他の多くと異なっていたのは…

劇的な健康の回復を見込むのは非常に厳しい(場合によっては、死ぬかもしれない)ことを

知りながら、あえて世間に”自分の記録”を公表しようとしたことでした。

 

容姿端麗で 周囲から羨望のまなざしを向けられ “陽のあたる場所”にいたはずの彼女…

自分がステージ4のガンであることを周囲が知ったら みんながどう思うのか?

 

夫の海老蔵さんも 彼女の気持ちを慮って マスメディアに”報道自粛”を申し出たのに…

麻央さんはあえてそれを翻して 自分の姿をさらけ出しました。

ガンの入院生活の 楽しい時も 苦しい時も

すべてをひっくるめた”生”の自分自身を伝えるために。

 

実は…

僕は 生前 麻央さんのブログに目を通していませんでした。

怖くて 見れなかったのです。

 

数年前、僕は がんで 三人の友だちを別々に亡くしました。

いずれも僕よりも年下で それぞれが ほぼ同時期に患っていました。

 

その三人の…全員が

自分の”闘病ブログ”を綴っていました。

 

痛みや吐き気がものすごく、死ぬほど苦しい…

入退院を繰り返すうちに 希望が絶望に変わっていく…

もちろん、幸福感たっぷりの描写もあるのですが、

ところどころにつらい言葉が見え隠れして…

やがては、重々しいつぶやきが多くなり…

 

病名や健康状態は大きく異なるかも知れないけれど、

病気をもっている立場の自分からすれば

死を前に向き合っている人たちの心の叫びを聞くのは しんどいです。

どうしても わが身に置き換えてしまうから….

いつか、同じことが 自分にも起こるのではないか…

もしそんな時が来たら….自分なら どうするだろうか…

 

彼女の死に触れ 僕は 今まで開くことのできなかった

麻央さんのブログを読んでみました。

 

 

あくまでも個人的な意見ですが、僕の友人の3人のブログに比べ

麻央さんのブログは 意図的に…言葉を選んでいるような気がしました。

印象が 穏やかなんですよね。

 

傍らに まだ幼いわが子たちが侍っている その安らぎが…

穏やかな文面に表れているような気もするし…

逆に 最愛のわが子を遺して旅立つ覚悟をしなければならないことは

僕には想像もできないような辛さなのだろうな…

 

 

麻央さんのブログの読者には 現在 ガンを患っている患者の方々も多かったようです。

リアルな闘病の様子を自分の現在(あるいは待ち受けている未来)に投影させ、

読んでいるうちにつらくなってしまったり 絶望感を味わった人たちも

恐らくたくさんいたことでしょう。

そして それと同じぐらいの数で 麻央さんの生き方に勇気づけられ

希望の光を見出した患者さんたちが いたのではないかと思います。

 

僕の3人の友だち、そして麻央さん…

彼らが”闘病ブログ”を記していたのが

(本人たちではなく)周囲の人々にとって

よかったことなのか、そうではなかったのか….

僕にはわかりません。

 

いや

いい、悪い の問題ではないですね。

 

周囲がどう思うのか、周囲にどんな影響を与えるのか…

悲しませるのか、つらい思いをさせるのか…

そんなことも 本人にしてみたら ”どうでもいい”こと。

 

だって 「生きる」というのは

結局 自分の「意思」によるもの。

自分は生きる、という 強い意志。

それは 決して誰にも邪魔できない。

 

その強い意志を残すための

「記録」なんだものね。

 

彼女は 自分の人生について こんな趣旨のメッセージを伝えています。

 

“私が死んだら、人はどう思うのだろうか?

「若いのに可哀そうだね」、「小さな子供を残して気の毒に」…というように?

私はそんな風に思われたくない。

なぜなら、私の人生の中で 病気が最大の出来事ではないから”

 

 

僕にとって、すごく共感できる 最大限に支持できる言葉でした。

 

墓参りに行くことも なかなかままならない現在

僕は 3人の友だちのブログを

彼らへの”墓参”のつもりで ときどき 開いています。

 

サイバースペースの彼らは

何年たっても あの 最後に会った輝きの笑顔のまま…

 

今さらなんですが…

この先、麻央さんのブログも 時々 覗いてみたいと思っています。

 

6月、梅雨の合間、雲の切れ目から差し込んだ光のように

いつまでも輝いている姿が見れることを 楽しみに。

 

 

 

 

 

 

なぎさのペンギン

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