スタッフ日記

Hello from DC, Part 5

AIDSMemorialQuilt現地では国際エイズ会議の話題がたくさんカバーされているかというとまったくそうではなく、先週来、アメリカのテレビや新聞の報道は、コロラド州で発生した銃乱射事件がずっとトップニュースです。ヒラリー・クリントン国務長官がスピーチをした23日の国際エイズ会議の模様を伝えたCNNニュースのアンカーは、「本来はもっと注目を集めてしかるべきニュースだったのに、残念ですね」と述べていました。

また一方で、ワシントンDCのローカル・ニュースとして、週末の夜にゲイ・カップルが少年たちに襲撃されたという事件も報道されています(ゲイであることから標的になったかどうかは不明)。

 

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QUILT2012

会議場があまりにもエアコンが効き過ぎで凍えそうだったので(?)、会議場を飛び出してナショナル・モールで開催中のキルト展示「Quilt in the Capital 2012 (The Names Project AIDS Memorial Quilt)」で半日スタッフとしてお手伝いをしてきました。
1987年頃、当時AIDS関連で亡くなった人々は社会のスティグマなどから家族に引き取られなかったり、葬儀場から拒否されたりするなどして、きちんと弔われないことも多かったそうです。それに対し、サンフランシスコの活動家らにより、故人への愛情や彼らが生きた人生に敬意を表するひとつの形として、故人のキャラクターを表すさまざまなデコレーションを施した、墓標と同じ大きさのキルトの制作と展示が始められました。このワシントンDCのナショナル・モールは、初めてのキルト展示が行われた場所でもあります。
今回、会場では故人の名前を読み上げるステージ・イベントも同時に行われ、後援のエルトン・ジョンAIDS基金から、エルトン本人も登場しました。
キルト展示のスタッフは、オリエンテーションでイベントの基礎知識(観覧者からよくある質問と答え)とキルトの広げ方、並べ方ととたたみ方(保管用のたたみ方と、セレモニーとして、花の形を模したたたみ方もある)を教わります。会場には実に何百何千ものキルトが一面に並べられますが、特定のキルトを探して展示を見に来る人もいるため、どのキルトがどこに展示されているかすぐ検索できるよう端末が用意されデジタル化されている一方、キルトを見た人が悲しみなどの感情をこらえられなくなることなどもあるので配慮し、必要に応じて話に耳を傾けるようにとの注意も受けました。
 
なお、ナショナル・モール以外にも、国際エイズ会議の会議場や図書館、劇場など、ワシントンDCのいくつかの場所でキルトが数十点ずつ展示されています。

WashingtonMonument

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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この日はまた、Whitman-Walker Healthという施設を訪問しました。HIV陽性者に対し医学・保健(メンタルヘルス、依存治療も含む)を中心に、社会的・法的支援のさまざまなサービスも提供している、ワシントンDCでHIV陽性者の支援といえばここ!と言われるようなところです。1ブロック分あろうかという大きな建物で、職員150人と1,000人以上のボランティアにより運営され、近隣地域からも含め約4,000人のHIV陽性者が受診・利用しているそうです。
なお、ワシントンDCで生活するHIV陽性者は14,500人ほどと言われています。アメリカは各州・特別区によって法制度が異なりますが、ワシントンDCでは、HIV検査で陽性になった受検者を医療機関に受診させることが検査者側に義務づけられているそうです。匿名検査も実施されてはいるようですが、身元がわからない人たちを医療機関は受け入れないので、受診につなげられないことから、プライバシー面など批判がありながらも実名での検査が推奨されています。また、日本のような国民皆保険や身体障害者認定はないので、任意保険や自己負担で医療費を捻出できる人はいいですが、ある程度の収入があって公的保険(高齢者向けと低所得者向けがある)の対象にならない人や、公的保険加入者でも州によっては医療費がカバーされない例(その州でHIV陽性者何名の医療費を負担できるかという予算などの都合で、医療費補助対象の基準(CD4数・ウィルス量など)が変わるので、治療が受けられるようになるまで待機リストに入る)もあるなど、一旦医療につながったとしてもHIV陽性者の通院や服薬アドヒアランスを阻む大きな壁があります。プライバシー面の不安と、陽性になったらなったで医療アクセスの不透明さなどから、自発的なHIV検査受検へのモチベーションは低いと言われています。

先日訪問したH.I.P.S.ではHIV検査の動機づけに受検者にギフトカードを配ることがあるそうですが、Whitman-Walker Healthでは定期的に外来受診をしたHIV陽性者にギフトカードを配るプログラムがあるのだそう。謝礼をしてでも定期的に通院・服薬をしてもらう方が、耐性ウィルス出現やAIDS発症といった健康上のリスクの予防ができるので、(患者の健康上のメリットだけでなく)長い目で見れば医療費の低減につながるからとのことでした。Whitman-Walker

おーつき

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