ぷれいすコラム

HIV/AIDSから見える、病気と向き合う社会

根岸 昌功 ねぎし内科診療所

AIDS が報告され、33 年が経過しました。この感染症が社会に与えた衝撃と対応を一臨床医の立場から整理してみました。

日本では、明治10 年から、急性伝染病者を隔離することで、国民を守る政策をとり、明治40 年には、癩という慢性感染症に対する隔離政策が定められました。この法が施行されている1981 年に、AIDS が登場しました。発病者らが社会的排斥を受ける中、翌年には米国で救済活動が起き、J.Mann は後に「この病気とどう闘い、どう付き合うかの有力なサンプルを与えてくれた」と発言しています。その後約2 年の調査・研究で、この病気の分布、リスクが理解され、病原体分離から抗体検査法ができ、抗体陽性でも発病していない者が多数確認され、この感染症は慢性・進行性の病気で、AIDS は末期の病態であると理解されていました。

日本では1986 年からの『エイズパニック』を経て、AIDS に関する立法を目指し、臨床の場に行政の介入権を設定しました。この動きに対し、疫学、行政、臨床、法曹の立場から、およびハンセン病者からの意見表明もありましたが、1989 年に「後天性免疫不全症候群の予防に関する法律」は成立しました。

米国では1990 年に全米障害者法が成立しました。WHO の国際障害分類β版の理念がその背景にあります。同じ障害があっても、その人の背景因子の違いによって、社会参加のありかたが左右されることに注目し、環境因子を改善する方向性を示し、のちに国際生活機能分類へと進展しています。1992 年にJ.Mann が米国の感染者入国規制政策に反対し、第12 回国際エイズ会議開催地をボストンからアムステルダムに変更しました。一方1993年、早くも薬剤耐性HIVの報告がありました。

1994年ぷれいす東京が発足。第10回国際エイズ会議、第一回AIDS 文化フォーラムが横浜で開かれました。1996 年、薬害HIV 訴訟の和解が成立し、恒久対策の具体化検討が始まりました。1997 年、東京都の「外来診療のあり方に関する研究」報告書があり、クリニック構想の原点になりました。1998 年にHIV 感染者の身体障害者認定制度が始まりました。HIV 感染症を内部障害とし、環境因子の改善を図り、治療を受けながらの社会参加を支えるという新しい理念は、感染者のHIV 治療へのアクセスに大きな良い影響を与えましたが、HIV 感染者の社会参加は、険しいままであるのが現状です。この年、いわゆる「エイズ予防法」「らい予防法」「性病予防法」がようやく廃止され、正されましたが、2000 年にはハンセン病者への宿泊拒否が起きました。

1998 年に、飛行機事故でJ.Mann 夫妻を失いました。彼は、エイズ対策プログラム制作にHIV 感染者が参加する権利を擁護する闘いをしてきました。

WTO のTRIPS 協定と『ドーハ宣言』は守られず、1998年から抗HIV 剤の知的所有権・財産権と「治療へのアクセス」とのトラブルや訴訟が相次いで起き、より多くの感染者へジェネリック薬での治療を提供しようと、10年以上もがいているのが国際的状況です。

2004年に、HIVクリニック構想がまとまり、開設地を探しました。HIV 感染症を扱うと説明すると、大手不動産紹介業社はほぼ門前払いで、駅前不動産屋が応援してくれ、ねぎし内科診療所は2007年から診療を始めました。

2013 年、UNAIDS は知的財産権の新たな枠組みを提言し、「2030年のエイズ終結に向けて」を発表し、2020年までに、HIV 感染者の90%が感染を知り、90%が治療にアクセスし、90%が十分にHIV を押さえ込む必要があると指摘しています。一方、米国CDCの公式サイトは、2013年末の米国内HIV 感染者推定数は120 万人で、うち86%は感染を知り、うち82%が3 か月以内に治療開始しているが、治療継続は39%、HIV の抑制成功は30%という現状を報告しています。第20回国際エイズ会議のメルボルン宣言は、「依然として流行の主要因になっている犯罪視や偏見、差別などの障壁を克服できなければ、エイズの終わりは実現しない」と結んでいます。

感染者を「治療を必要としている人」と位置付けられるのか、抗HIV 剤の知的財産権問題が解決して「治療へのアクセス」が保障されるか、現在もこのふたつは大きな課題です。

ぷれいす東京Newsletter No.88(2016年2月号)より

根岸 昌功 ねぎし内科診療所

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