陽性者と家族の日記

夕暮れて

ある用事の帰り、広島から東京へ向かう
新幹線の中から 夕焼けを見る。

西の方角はまだまだ明るいのに、東へ向かうにつれ 
景色はずんずん暗さを増す。
日没をはさみ、目の前の世界は わずか10分で一変した。

そういえば、この間 外国に行ったときは
高度2万フィートを行く飛行機の中で、10時間もの間、
昼が続いたり、夜が続いたのになあ。

まだ子供だったころ、夕方は特別の時間だった。
学校から開放され 泥んこになって友だちと遊ぶ
自分に帰れる一瞬 そのために 毎日を生きていた。

日は暮れても、翌日はかならず 明るい朝がやってくる。
不思議なくらい その信頼がゆらぐことはなかった。

きれいすぎる夕暮れの次の日は 雨になる。
おばあちゃんから そんな言い伝えを聞いたことがあった。
それでも、雨はいつかやむと思っていたし、切れた雲間から
光が差すことに なんの疑いも 抱いてはいなかった。

もうひとつ 
つい最近、気がついたことがある。

いつだっけ?
でも たぶん「あの時」から 長い長い間
自分は暗闇にいたのだということ。
天気すらわからない 暗闇である。

そして そのことに気がついた時
自分の周囲は すでに明るくなっていた。
暗闇にいたことを その暗闇にいた間 
意識していなかったのだ。

歳月の流れを感じるのはしゃくなので 
いまは 夕焼けにノスタルジーを抱かない。

いまでも
晴れても雨でも 日の出は必ずやってくる。

そんな ゆらがない信頼に微笑むとき 
僕は あの 小学生のころの自分に戻る。

なぎさのペンギン

陽性者と家族の日記 へ