ぷれいすコラム

ぷれいす東京設立20周年記念巻頭シリーズ 第1弾 「希望をつなぐ、仲間をつなぐ」

東 優子

1994年、池上千寿子さんたち10数名の仲間が HIVと人権情報センター(JHC)を離れて新しい団体を立ち上げると聞いたのは、憧れだったChizuko Ikegamiの足跡をたどるように留学したハワイで、エイズ関連のケースマネージャー実習をしている最中のことでした。私のボランティア・デビューはそれより3年ほど前。

山口勝久さんが事務局長をしていたJHC東京支部での「36時間 AIDS電話相談」です。

日本での「感染爆発」が懸念されるなか、当時の予防啓発活動で繰り返されていたのは、「感染後の潜伏期間は平均で約7年。 AIDSを発症してしまうと約2年で死を迎える」という絶望的な内容でした。「感染=社会的死」あるいは「発症=死」が強く意識される、そんな時代でした。

私をボランティア活動に誘ってくれたのは、ヒデキ(砂川秀樹)です。今でこそ「東京レズビアン&ゲイパレード」実行委員長をはじめとする数々の業績で名の知れた彼ですが、二人の出会いは留学先のシアトルで、高校1年の時でした。帰国後も遠距離電話で交流を深め、世間話から政治問題まで何でも語り合い、同じ大学を受験するために私の実家に宿泊までした、そんな彼にゲイだとカムアウトされたのは、大学に入ってからのことです。「今まで言えなかったことがある」と言われた時に覚えた衝撃(事実の重み)が、現在の仕事や社会的活動の、私の原点です。

こうして当時の思い出話をする時、事実を正確に記述したいと思いながらも、長い歳月で記憶というデータが自分に都合よく上書き保存されてしまっているようにも思います。どこまでが本当だったのか、思い違いや勝手な脚色もあるでしょうが、私にはもう一つ、忘れられない思い出があります。

童顔のA君は、ハワイ留学前の東京で毎週のようにつるんで遊んでいた仲間の一人でした。その彼が突然姿を見せなくなり、入院していると教えてもらいました。何のための入院なのか、当時の恋人でさえ知らされていませんでした。それでも何となく、だた何となく、皆がひとつの病名を思い浮かべていたように思います。そんなある日、「近所まで来たから」と言って現れた彼は激痩せして、別人のようでした。「元気になったらまた遊んでね」とだけ言い残して帰って行く、その後ろ姿に抱いた不安は、すぐに現実のものとなりました。

私たちのほとんどがまだ20代前半で、社会人として葬儀に参列した経験もなく、何をどうしたらいいのかわからない状態でした。そこで相談に集まった仲間の一人がこんなことを言いました。「女はいいけど、僕たちが集団で行ったらマズイんじゃないかな。」家庭や職場でクローゼットなゲイだった彼の秘密を守らなければ、という気持ちから出た発言でしたが、そんな馬鹿な、こんな悲しい台詞があるでしょうか。

お通夜では、彼の部屋に案内してくださったお父様の一言に、そこにいた全員が戸惑うという場面もありました。「この部屋にある息子の遺品をすべて、お友達だった皆さんで持ち帰ってください。」…全部?…勉強机の奥には、ゲイ雑誌や写真など、彼の秘密を示すものがありました。「お父さん、知ってたのかな」「息子の大事な遺品なのに」「A君は僕達に真実を伝えて欲しいかな」ご遺族の気持ちも、A君の気持ちも、私たちにはそうなのかどうなのか想像することしかできず、悲しさだけが募ってゆく、そんな夜でした。

あれから20余年。この間、いろいろな出会いと別れがありました。 HIV感染症やLGBTQなど、「性の健康と権利」をめぐる状況には大きく変わったこともありますが、絶望的に変わっていないことも多々あります。それでも、私たちには希望がある。希望があるから、続けられてきた。その希望とは、「絶望を分かち合うことのできる仲間」*の存在です。そしてそんな希望をつなぎ続けてくれる一つが、「ぷれいす東京」なのです。20周年、おめでとうございます。

* 熊谷晋一郎さんのインタビュー記事「自立は、依存先を増やすこと。希望は、絶望を分かち合うこと」(TOKYO人権 第56号, 2013)

ぷれいす東京Newsletter No.81(2014年5月号)より

東 優子

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