専門家と話そう

「『開業医と話そう』根岸昌功先生のお話を聞いて」 冬

 「病気を見ずに人を見る」が根岸先生がご自分のクリニックを開業するに至った大きな理由だと伺った。その言葉通りの病院作りを目指していらっしゃるようにお見受けし、会合に参加できたことを嬉しく思う。
 担当医以外の意見を聞くことは大変勉強になる。

根岸先生は技術的および心理的の両方の質問に非常に率直に答えてくださった。また処方箋は出すが薬そのも のは契約した外の薬局で受け取らねばならないなど、拠点病院にはあって根岸先生のクリニックには提供出来ない部分も明確にしてくださった。しかし週末も開業しているので通院のために会社を休む必要はなく、クリニックで処置できない場合は慶応大学に紹介してくださるそうだ。どちらをいいとするかは個人差があ るが、自分のライフスタイルに合わせて病院を選べるオプションを作ったこと自体が、すでに先生のクリニック開業の意義に適っていると思う。
 拠点病院の先生方は次から次へと診療をこなしている様子が伝わり、患者側も病気に対する療法以外の話を医師が聞いてくれるという期待は抱いていないと思 う。しかし慢性病を抱える病人が前向きに生きてゆくには、その病気をどのように人生に取り入れるか、がとても大きなテーマであり、「病気」が、ではなく 「自分」が人生の梶をとっているのだ、という意気込みを持てるようにになるまでが、長い道のりなのである。HIVと共存していけるようになることは簡単で はない。この心のケアの部分を大病院の医師に求めることは難しかろうと思うのだ。
根岸先生のクリニックはただ話を聞いてくれ、定期的にお酒持ちよりの交流会を開くといった「長屋的」な病院を目指しているらしい。これは心強いことだ。 町のお医者さんにHIVの診療を診てもらうことで拠点病院に通院する「大げさ」さが気軽なものになるという期待も持った。HIV以外の町の診療所が日常的 に扱う病気―ただ風邪を引いただの、おなかが痛いだのといったものーを診てもらう近隣の患者も根岸クリニックを訪れる。たったそれだけのことがHIVとい う病気を心理的に「軽い」ものにし、我々の心を徐々に明るく(すでに明るい人はさらに明るく)してくれるのではないかと感じた。
 ただ根岸先生のお話でびっくりしたのはHIV患者を診るといったら不動産のオーナーが断ったという話だ。また悪性リンパ腫はHIV病状が安定しても発症 する油断ならない病気らしい。この話を聞いて部屋は一瞬しーんと黙ってしまった。やはりどんなに治療法が進歩したとしても我々は恐い病気のひとつに冒され ているのだな、と改めて思った。
 しかしその後の根岸先生の言葉に励まされた。「たかが病気」であるという言葉だ。誤解を恐れずに言ってくださった言葉だ。そして病気になって得る財産は 「勇気」であり、医師の心を突き動かしているものは使命感ではなく、その患者の「勇気」だと仰っていた。とても嬉しい一言だった。その帰り道「たかが病 気」をスローガンに、気楽に、そして逞しく生きていくことで、私のHIV人生を輝くものにしよう、と思った。

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