ぷれいすコラム

インターネット相談の意義とは何か?

伊藤 次郎 NPO法人OVA代表理事/精神保健福祉士

1)見えない当事者に支援を届けるぷれいす東京コラム_伊藤次郎さん
NPO法人OVAでは若者の自殺対策としてインターネット相談を行っています。日本の15歳〜39歳までの死因の1位が自殺になっており国際比較しても非常に深刻な状況です。

死にたい気持ちを抱えている若者を外見上わかりませんし、自らその気持ちを他者に伝えない事も多くあります。では、そういった見えない当事者、「声なき声」をどう見つけて情報や支援を届ければいいのか、という課題が起こります。

そこで、NPO法人OVAでは自殺念慮を抱えた若者たちのインターネット上の行動パターンに注目しました。

検索エンジンで自殺関連用語を調べているにユーザーに対して、検索連動広告を表示させ、特設サイトに誘導し、インターネット上で相談を受けるという方法です。

インターネット上で継続相談を受け、共感的なかかわりをするだけでなく、相談者が抱えている問題を整理しながら積極的に現実の相談機関(例:行政の窓口・医療機関等)につないで、見守るというインターネット上でのゲートキーパー活動です。通称「夜回り2.0」と呼称しています。

2)ネットから介入し、現実につなぐ。
これらの活動経験からインターネット相談で最も重要なことは、逆接的ですが、支援をインターネット上にとどめないこと、であると考えています。

例えば、所持金がほとんどないホームレス状態の若者から相談があったとします。そういった人に対して、インターネット上で話を共感的に聴くだけで抱えている問題を解決することはできません。

例えば、まだ医師に相談したことがない、明らかにPTSDや統合失調症を発症していると思われる相談者を、インターネット相談だけでどどめておき、医療機関につなげていかないことは適切な支援とは言えません。

メールであれ、チャット(SNS相談)であれ、インターネット上での相談活動の限界を知り、積極的に現実の世界と接続する(つなぐ)ことが重要です。

では、「結局、対面につなぐなら、最初から対面でやればいいのではないか」という意見も出るでしょうが、そう簡単ではありません。援助要請能力(助けを求める力)が弱まっている相談者にとっては、いきなり窓口に足を運んで相談するというのは高い障壁があります。電話ですら障壁がある層もいます。

とりわけ若年層です。彼らは「相談」そのものをどうやっていいのかわからないというのがありますが、日常的にテキストベースのコミュニケーションが慣れており、電話でのコミュニケーションに慣れていない層とも言えます。

人に話しづらいことを、普段使わない話しづらいコミュニケーション方法を使って、あまりしたこともない「相談」をはたしてできるのでしょうか。

3)インターネット相談の意義
インターネット相談にはメールなどの時間的に非同期的な(リアルタイムではない)コミュニケーションに加えて、チャット・SNSなど同期的なコミュニケーション方法があります。

テキストは対面や電話での相談と比べて、圧倒的に情報量が少なく、コミュニケーションコストは高いと言えるでしょう。「対面や電話で話した方がはやい」ということです。インターネット上で支援を行うとなると、非言語情報もないため、アセスメントにも限界が生じる事もあります。

では、なぜインターネット相談をすることに意義があるのでしょうか。
それは、インターネット相談でないと「支援が届かない層」がいるためです。

自殺念慮を抱えた若者で言えば、なかなか電話や対面だと相談するのに障壁が大きく、そういった窓口をつくっても、なかなかリーチができません。様々な問題を複雑に抱えていて、リアルタイムで話すのも抵抗がある人も多くいます。

その点、インターネット相談は顔や本名を出す必要がなく、匿名性が担保されることは相談者の緊張感をやわらげます。現実では話題にしにくいことでも、自己開示がしやすくなります。

また地理的な制約もなく、身体を動かす必要もなく、とりわけメール相談においては時間的同期性がなく、相談への敷居を大きく下げる事が出来、援助要請能力(他者に助けを求める力)が低くなっている
ハイリスク層へのリーチが期待できます。

インターネット上でのテキスト相談は、日常的にテキストでコミュニケーションを行う現代の若者達のニーズにマッチしています。

インターネット相談の意義は、対面や電話で相談できない層へのアウトリーチです。

4)支援のありかたをニーズにあわせて考える
対人支援の基本は「対面」です。私もそのように考えています。しかし、それだけの相談窓口では支援につながらない人がいるのも確かです。

インターネットを用いた支援はとても歴史が浅いものです。日本がとりわけ遅れているわけではなく、国外の取り組みも多いとは言えません。そのため、対面などに比べれば、その支援手法についての知識は国内外で圧倒的に情報が不足しています。

かつて電話相談が始まった時も、批判があったとききます。しかし、電話相談を開設することで今まで出会えなかった「声なき声」に多くであうことが出来たでしょう。今や電話相談は当たり前に行われています。

「インターネット上で支援など出来ない—。」
それは支援者側のロジックです。

私達支援者も、当事者のニーズにあわせて変わっていく必要があるのではないでしょうか。

ぷれいす東京NEWS2018年8月号より

伊藤 次郎 NPO法人OVA代表理事/精神保健福祉士

メンタルヘルス対策を企業に提供する人事コンサルティング会社(EAPプロバイダー)を経て、精神科クリニックにて勤務。主にうつ病の休職者の復職支援を行った。2013年6月末に日本の若者の自殺が深刻な状況にあることに問題意識が芽生え、マーケティングの手法で自殺ハイリスクの若者のリーチしようと「夜回り2.0(Internet Gatekeeper)」の手法を開発・実施し、NPO法人OVAを設立した。

伊藤次郎さん(NPO法人OVA)

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