ぷれいすコラム

「声をあげる陽性者たち」の企画に寄せて

生島 嗣 特定非営利活動法人ぷれいす東京 代表

今回、ぷれいす東京の活動報告会で、3人のHIV陽性者に裁判を通して、何を変えようとしているのかを語ってもらう。このような開かれた場でトークに参加することは、とてもハードルが高い。そして、そもそも裁判をおこすとなると、とても勇気がいることだ。また、刑事事件で起訴された場合、多くの人は、なるべく現実的な対応をして、早く裁判を終わらせたいと考えるのではないだろうか。

数年前のこと。地域病院に勤務しているある医療従事者が体調不良となり、HIV陽性が判明した。職場で感染が判明したため、院内で大きな問題になり、院長に呼び出された。彼は過去の性行為時の予防行動について詳細に質問され、管理職としての資質に値しない行為だと非難され、医療職を外されてしまう。LGBT支援法律家ネットワークの弁護士を紹介し、法律相談を受けてもらったのだが、親も住む地元では、裁判などでことを荒立てる事は難しい。ご本人は、怒りもあるが、そのまま退職して、別の職場を探したいという結論を出したということがあった。

今回のトークに参加する3人は裁判を通して何かを変えようとしているという共通点がある。どんな化学反応が起こるのかを楽しみにしている。
さて、今回のスピーカーについて紹介しておきたい。

1)Gさん:25年以上にわたり日本人パートナーと生活する台湾人。同性間のため在留特別許可が認められないのは不平等と争っている。

彼は20年以上、滞在資格を持たない状態で日本で暮らしてきた。しかし、その生活は決して楽なものではない。健康保険にも加入できないし、海外旅行にもいけない。加えて、日々、警察に職務質問で拘束されるのではという不安と向き合いながら、暮らさなければならいのだ。さらに、日本人パートナーがメンタルを病んで働けなくなってしまった時期には、彼がバイト生活をしながら、二人の生活を支えてきた。もちろん、所得税などの納税もしてきている。

ぷれいす東京とGさんとは、2005年に拠点病院の医師からの紹介で出会った。当時のGさんは、やせ細り体調が悪そうであった。何度かお会いするうち、Gさんは、杖をつかって私たちの事務所にくる様になった。その姿をみたとき、1997年以前の、まだ有効な治療法がなかった時代のエイズで逝ってしまったHIV陽性者たちの姿が思い出された。このままだと、彼の命が危ない、人権上、放置できない、と思い外国人の支援を行う医師に相談し、緊急の支援を行った。

その後、彼のために、台湾のNGOとも連絡をとり、本人が望めば母国に橋渡しができるように準備をした。しかし、何度か帰国を投げかけものの、本人は「日本人のパートナーさんのもとを離れるつもりはない」、「もし、母国に帰るくらいならば、日本で死ぬ方がいい」ということを繰り返し答えていた。私たちは、終始一貫したGさんの態度をみて、彼にとっての唯一の家族はパートナーさんであること、それが帰国しないでいる本当の理由なのだと理解した。日本では同性間の結婚は選べず、養子縁組ではビザは得られない。そのため、彼は隠れながら日本での生活を続けざるを得なかったのだ。

Gさんの裁判は、実は多くの同性の国際カップルにとって人ごとではないものだ。外国籍のパートナーがなんらかの理由で就労が継続できなくなった場合、男女間であれば、結婚して、在留特別資格の申請を行う手段があるが、同性間の場合はその選択肢がないため、ビザの継続が難しくなってしまうからだ。

2019年3月、Gさんは、定住者としての滞在資格が認められたため、訴訟を取り下げた。同性間の関係性をもとにしたビザの発給は画期的な出来事だと、大きく報道された。

2)佐藤郁夫さん(結婚の自由をすべての人に訴訟(同性婚訴訟)原告)同性同士で結婚ができないのは法の下の平等に反すると訴訟を起こした、全国13組のうちの1組。

13組の原告の中には、女性同士、男性同士の様々なカップルもいるが、佐藤さんとパートナーは、HIV陽性者と陰性者であることを公表して原告になっている。陰性パートナーは仕事との関係から顔を出さない形で訴訟に参加をしている。
佐藤さんは参加の動機を、「同性の婚姻を認めて欲しいと思う一方で、社会に根強くある差別・偏見を少しでも少なくしたいという思いがあるから、原告になった。」と語る。

HIV領域では、ターミナルなどの終末期の病室で、「家族ではないので」という理由で、病室から追い出されてしまう同性パートナーがいることは、90年代から多く経験してきている。事前に本人とそのパートナーが周囲に二人の関係性をどのように説明し、理解してもらっているかにより、HIV陽性者自身が意思表示ができなくなったときの、最後の別れの場面の在り方は大きく違ってくる。

約20年前、「家族の思うようにさせてあげるのが、親より先に逝ってしまう自分への贖罪だ。」と話すHIV陽性者とパートナーを支援していたことがある。パートナーにもその思いを伝えて、病院では、家族の前では、友達のふりをして過ごしていたカップルであった。医療者も地域の支援者の私たちも、恋人同士として家族にも理解してもらって最後の時を過ごしてもらいたかったが、本人たちの選択の中には、それはなかったのだ。療養場面、相続、住居など、様々な場面で、男女のカップルであれば、事実婚でも得られうる安心が、同性カップルには未だにないのだ。

HIV=死ではなくなりつつある。海外の余命の推計によると、感染者と感染していない人の寿命はそれほど変わらなくなってきているという。昔はHIV医療の現場で起きていたことが、私たちの身近な生活領域でも起こるのではないかと考える。そういった意味で、同性婚訴訟はとても重要な訴訟でもある。

3)ヒデさん(RUSH裁判 被告)RUSHは指定の違法薬物として規制されたが、行き過ぎだと争っている。

ヒデさんはRUSH(ラッシュ)を輸入しようとして、税関で見つかり、医薬品医療機器等法と関税法違反で起訴され、地方公務員の職も懲戒免職となった。

ラッシュは、古くからゲイショップ等ではレジ脇で普通に売られていたものだった。2005年頃から脱法ドラッグとして販売や流通が規制が始まり、2007年には指定薬物として違法なものに位置付けられた。さらに、2014年には、各地で脱法ドラッグによる事故等の騒動があり、その影響からか法改正が行われ、所持や規制までも厳しく制限されることになった。2015年からは関税法も改定され、個人輸入などで税関が摘発すると警察が連動することになった。

最初は販売の規制が主な目的だったが、2014年前後に、池袋など各地で”脱法ドラッグ”による交通事故が起こるなどしたことで、規制強化を是認する社会情勢が促進されていった。しかし、ラッシュには、そうした精神毒性や保健衛生上の危害が認められないにも関わらず、その範囲が見直されることはなかった。

弁護団がこうした規制強化のプロセスを確認したところ、指定薬物を決める会議の場で根拠とされた文献の説得力に疑問が生じたのも事実だ。処罰化によって仕事を解雇されるなど、本人の人生にも大きなデメリットを与えている点も見逃せない。

税関での指定薬物の摘発件数。過去の財務省の発表から推測すると、このうちの7割がRUSH(ラッシュ)だと思われる。2015年:1,462件、2016年:477件、2017年:275件、2018年:218件 現在でもかなりな人数が摘発されていると思われる。

また、ぷれいす東京の研究班が出会い系アプリ利用者を対象に実施したLASH調査(2016年)回答者:6921人中、RUSH(ラッシュ)の過去の使用経験は、6ヶ月以内:284人(4.1%)、7ヶ月〜1年以内:71人(1%)、過去に使用:1,232人(17.8%)であった。2018年に実施したPrEP調査では、回答者:6247人中、6ヶ月以内:382人(6.1%)であった。

RUSH(ラッシュ)の使用者はまだまだ継続して存在する。

今でも近隣の国々では流通していたりする。ラッシュはイギリスでは、抗精神作用が否定され、規制の対象からも外された。ヒデさんの裁判では、日本の薬物の規制のそのプロセス、また在り方が問われている。このような「ダメ、ゼッタイ」という施策がよりハードなドラッグの使用にMSMを追い込んでいるようにも思える。

これまでにも多くのHIV陽性者の声が現状を浮かび上がらせ、変えるためのきっかけとなった。もっとも大きなものは”薬害エイズ裁判”だ。また、それ以外でも、職場(含む医療機関)や学校における差別的な取り扱いにHIV陽性者たちが声を上げてきた。今回のトークを通して、声を出すことの意味について、3人のスピーカー、コメンテーターと一緒に改めて考えてみたい。

外国人同性パートナー在留特別資格訴訟を支援する会
https://www.facebook.com/外国人同性パートナー在留特別資格訴訟を支援する会-1258996964209441/

MarriageForAllJapan – 結婚の自由をすべての人に
http://marriageforall.jp/

ラッシュ(RUSH)の規制を考える会
https://rushcontrol.jimdofree.com

ぷれいす東京NEWS 2019年2月/5月合併号より

生島 嗣 特定非営利活動法人ぷれいす東京 代表

生島 嗣

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