ぷれいすコラム

おかしいことに「おかしい」と声を上げる大切さ

山下 敏雅 永野・山下法律事務所/弁護士

ぷれいすコラム おかしいことに「おかしい」と声をあげる大切さ
今年の活動報告会でのトークコーナー「声をあげる陽性者たち」では、裁判の当事者の3人の陽性者のお話がありました。日本人同性パートナーと20年以上暮らし、訴訟で在留特別許可を得た台湾籍のGさん。結婚の自由をすべての人に訴訟(同性婚訴訟)の原告の一人の佐藤さん。そして、ラッシュ所持で起訴され、規制自体が不当と無罪を争うヒデさんです。

Gさんから、「行政書士に相談に行ったら、入管のガイドライン上、在留資格を得るのは難しいと言われた」という話がありました。弁護士の私は、ガイドラインや法律がどうかよりも、現実を見て「これはおかしい」と感じたら、おかしい制度のほうに対して戦っていきます。私が接する10代の子どもたちは、「ルールは、上の人が勝手に決めて、自分たちが従わなくてはいけないもの、違反したら罰が加えられるもの」と思っています。私が「そうじゃない、ルールはみんなを守るためにある。ルールには理由が必ずあるし、ルール自体がおかしかったらおかしいと声を上げて変えていいんだよ」と言うと、驚かれます。私たちは子どもの時から、理不尽なルールにも我慢して声を上げないように意識を植え付けられてきていると、いつも思うのです。

Gさんやヒデさんに、不法滞在やラッシュ所持は犯罪なんだから仕方ない、などと言う人がいます。でも、男女のカップルなら日本にいられるのになぜ同性同士はダメなのか。ラッシュも、他の薬物のように常習性もなく他の人に被害も与えないのに、なぜそれを楽しむ自由がないのか、規制する審議の過程も杜撰じゃないか。そういうふうに、おかしいことにおかしいと声をあげ、社会を良い方向に変えていくことは、とても大切です。

私はGさん・佐藤さんの2つの訴訟の弁護団員です。ヒデさんの裁判には加わっていませんが、私の仲間の弁護士4人が担当しています。私が弁護士登録する前年の2002年、エイズを発症し余命数日の方が外国籍の同性パートナーに財産を相続させようとして、親族との間でトラブルになった事件が、私の目の前で起きました。こういった問題に取り組む弁護士が極めて少ないことを実感し、2007年にLGBT支援法律家ネットワークを立ち上げました。最初は法律家が7人しかいませんでしたが、少しずつ輪を広げ、今では150人ほどになり、ネットワーク以外の弁護士たちともタッグを組んで訴訟に取り組むようになっています。

日本は裁判を起こすハードルが非常に高いだけでなく、裁判を起こす人に批判さえ起きます。しかし、裁判を起こす当事者は,極限の状態に迫られ、自分の人生を守るために戦っています。本来なら議会で法律が作られればよいのですが、少数者の問題は多数決ではなかなか前進しません。ましてや差別・偏見が根底にある問題はなおのことです。今現在、困っている当事者がいる。だからこそ、少数者を守る最後の砦として司法・裁判所があり、当事者をサポートする弁護士がいるのです。

私たち弁護士は、人権を守るのが仕事です(弁護士法1条)。一人一人が大切な存在として扱われるということ。どんなセクシュアリティでも、大人も子どもも、病気や障害を持っていてもいなくても、国籍が日本の人も外国の人も、どんな人でも一人一人が尊重されること。一人ぼっちではない、ここにいていいんだと思える居場所があること。自分の人生を自分で選んで生きていけること。毎日の暮らしを安心して過ごし、幸せな人生を送れること。今申し上げたこと全てをひっくるめて,法律の世界では人権という言葉で表現します。

その人権を守ることは、弁護士だけができるのではありません。日常生活の中で誰もができることですし、すべきことです。毎年この活動報告会に来て思うのは、ぷれいす東京が日々行っている活動は、まさに人権を守ることそのものだということです。報告会の中でボランティアの方が「僕は利用者の話をずっと聞いているだけですけど」とおっしゃっていましたが、利用者の方は、話を聞いてもらっている間、一人ぼっちではないと実感できます。ぷれいす東京の取り組みが、一人一人の安心した毎日・幸せな人生に繋がっていることを、私もいつも実感しています。私は法律家の立場でサポートの輪に加わっていますが、それぞれの領域の方々や多くのボランティアの皆さんと1年に1回、ここにこうして集まって話を聞けることを、とても嬉しく思っています。

*2018年度ぷれいす東京活動報告会のトークコーナー「声をあげる陽性者たち」で山下弁護士が話した内容を、ぷれいす東京NEWS2019年8月号「ぷれいすコラム」のために書き下ろしていただきました。

ぷれいす東京NEWS 2019年8月号より

山下 敏雅 永野・山下法律事務所/弁護士

山下敏雅弁護士

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