ぷれいすコラム

抗HIV薬がない!!!

青木 理恵子 特定非営利活動法人CHARM 事務局長

ぷれいすコラム「抗HIV薬がない!!!」NPO法人CHARMは、大阪を拠点にHIVと共に生きる人たちが必要としている支援活動を複数の言語で行なっています。

2020年春頃からCHARMの相談窓口に「薬がない!助けて!!」と言う切羽詰まった相談が次々と入るようになりました。相談してきた人たちは、コロナによって国際移動が止まる前までは、抗HIV薬を自国や海外で入手して国際輸送していました。それがコロナ禍で輸送が止まり入手できなくなり困った果ての相談でした。

CHARMでは、2020年2月から2021年2月までの間に21名の人から同じような内容の相談を受けました。国籍は、アジア、アフリカ、ヨーロッパなど15ヶ国でした。相談者の16名が日本に生活基盤を置いて暮らしている中長期在留者であり、短期滞在者が3名、在留資格のない人が2名でした。相談者の内16名は診療につながりましたが、5名は日本では医療を受けることができませんでした。コロナによって明らかになった外国人HIV陽性者を取り巻く課題を紹介します。

1つ目の課題は、資格も条件も揃っているのに、医療につながっていない在留者がいることです。相談してきた21名の内、長期在留者16名(76%)がエイズ拠点病院で診療を受けていませんでした。中長期在留者とは、日本に3ヶ月以上滞在しており、健康保険に加入する資格も有している人たちです。日本でHIV医療を受ける資格も条件も揃っているにも関わらず、日本でHIV医療につながっていませんでした。海外から来日するHIV陽性者が日本での医療情報を得ることができる窓口は限られています。移住先での新たな情報が得られなければ、出身国の医療機関が引き続き薬を処方し、国際輸送に頼ることでしたが、今回のコロナ禍で止まってしまったのでした。

2つ目の課題は、日本の社会保障を利用できない外国人がいることです。
医療機関につながった16名のうち、身体障害者手帳や自立支援等を申請して日本の社会保障による医療補助を受けることができた人は、10名でした。それ以外の6名は、身体障害者手帳を申請する際の一定以下の免疫等条件を満たさないため申請することができませんでした。HIVの治療は、この10年間で服薬開始時期が大きく変わりました。できるだけ早い時期から服薬を開始することでウイルスを抑えることが患者本人にとっても感染予防にとっても有効なことが明確です。世界の国々では、免疫の数値が低くなる前に服薬を開始しており、免疫状態等が悪いデータはないと言う人が増えています。日本だけが世界から取り残されている感が既にあります。社会保障制度を利用できない人々は、日本の医療機関で血液検査と診療を定期的に受けて状態を確認だけはしている人もいますが、医療機関は受診せずに薬だけを入手して服薬をしている人もいます。

3つ目の課題は、HIV医療を受けることができない外国人がいることです。相談を受けた21名のHIV陽性者の内5名は、日本で医療を受けることができませでした。
服薬を始めたら一生続ける必要があるHIVの治療は、国境を越えても継続していく必要があります。そのためには日本でも、途切れずに治療できるシステムが必要ですが、日本では在留資格のない人の医療を救済する方法は非常に限られており、難民申請者を除いてHIVの治療は対象になりません。(1)

在留資格のない人々とは、観光客やオーバーステイで働いている人たちだけではありませんが、その実態は知られていません。例えば、自分が暮らしていた国や地域で命を脅かされる経験をして日本に逃げてきた人たちは1970年代後半のインドシナ難民以降も世界各地から来日し、難民申請をしています。その人たちが仮放免という状態で滞在している間の扱いは、在留資格がない状態と同じです。又何らかの理由で退学となった留学生、家族等から暴力を受けて友人宅に避難したDV被害者が期限内に更新手続きをすることができなければ、在留資格を失います。又短期滞在の予定で来日した人々がコロナ禍で1年以上国に帰れなくなった場合も、入国時の在留資格が短期滞在であることを理由に日本の保険に加入することも社会保障を利用することもできません。在留資格のない外国人の中にもHIV陽性者がいます。HIVは継続的に服薬をすることが不可欠であるにも関わらず、在留資格の種類によって医療から隔絶されています。
 
日本政府は、来日した人たちに医療にアクセスするための情報を提供する必要があります。また、服薬開始時期が早くなっている国際的潮流に合った更生医療申請の条件を検討し直す必要があります。最後に、治療することが感染予防となることが明確に示されている現在、HIV陽性者はどこにいても医療にアクセスできる状況を世界中でつくり、全ての人にHIV医療を保障することが必要ではないでしょうか。


(1)在留資格のない外国人に更生医療が適応するかについて2000年に質問した大脇雅子参議院議員に対する回答は、「在留資格のない外国人は、更生医療が適応する対象として想定しておらず身体障害者福祉法の給付も想定されていない」 というものでした。
「外国人の医療と福祉に関する質問主意書」と政府答弁(抄)
◯質問第26号質問主意書(国会法74条)平成12年(2000年)4月28日参議院議員大脇雅子
◯質問主意書答弁書内閣参質147第26号平成12年(2000年)5月26日内閣総理大臣森喜朗

青木 理恵子 特定非営利活動法人CHARM 事務局長

青木理恵子さん国際基督教大学大学院修了、フィリピンAsian Social Institute ソーシャルワーク修了。1992年より京都YWCA・APTで外国人の総合支援電話相談コーディネーター、1998年よりバザールカフェ創設に加わり総務、2002年より特定非営利活動法人CHARM創設に加わり事務局長。2022年度日本キリスト者医科連盟第73回総会会長 https://japan-cma.net

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