就職支援セミナー

「『障害者として雇用』の違和感」TK(感染告知:2008年/40代)

とにかく驚いたのは、参加者の多さでした。実数値は分かりませんが、おそらく40名近いHIV陽性者の人が一時に一所に集まるという光景を目の当たりにしたのは初めてでした。出席者の多くは30代~40代と思しき方々で、その内数名が20代や50代というぐらいでしょうか。
まだまだ働く必要があり、働く体力を持っていて、何よりその意思があることを感じさせる人々がそこに集まっていると感じました。
そして、その内の一人が自分です。
一見、普通の転職説明会と見分けがつかない光景です。では何が違うのか?というと、自分を含むこれらの人々はHIV陽性者であることで、自治体から「障がい者」として認定されていること、その一点です。参加企業と全体の感想を書く前に、先ずは自分がなぜこの就職支援セミナーに興味を持ち、参加に至ったのかを説明いたします。自分が勤める企業は、興味のある人ならばそこそこ名の通った上場企業に勤めています。仕事では、自分が興味のある分野について仕事をさせてもらっており、それなりの成果を上げて、それなりに評価を受けて、それなりに高い給与を得ており、職場環境も人間関係にも悩むことなく、労働者としては非常に良い環境で働くことができています。つまり、現状では何も不満はありません。ゲイであることを公言しないのは自分のポリシーでもあり、たまにゲイ的な話題や冷やかしについては、多少の我慢はありますが、ハラスメントを叫ぶほどのことでもありません。
一つ、気にかかっていることを言うならば、同僚も加盟している会社の保険組合から、多額の医療費を拠出してもらいながら、自分が障がい者であることを隠していることが、同僚ひいては会社に迷惑をかけているようなうしろめたさを感じることです。
もちろん、会社が税法上得をしても、保険組合が得をすることは特にないことは分かっているのですが、自分が名乗り出ることで、ある程度、自社ひいては同僚の負担が軽くなるのではないか?という気持ちがあり、ならば、障がい者であることを公言して入社できる企業ならば、このうしろめたさは軽くなるのではないか?という思いを持って参加しました。
日本IBMやMicrosoft日本法人という名だたる企業が参加しており、LGBTへの対応やダイバーシティーに理解があり、障がい者雇用に積極的である「心が広い企業」というのは企業活動としては賞賛されるべき実績であり、このような企業がもっと増えることを願っています。
しかし、各企業の説明を聞いて、自分には何か微妙な違和感を感じていました。なぜかポイントがズレている感が否めません。
何が違和感なのか?
企業側は以下の文脈で、考えていたのではないか?と思います。
1.異性愛者 + 障がい者 = 障がい者
2.LGBT + 障がい者 = LGBT障がい者
今回の支援セミナーでは、2.への配慮を示す説明が幾つかありました。
自分としてはこの1.2.の文脈だけでこのセミナーを説明するのでは枠組みが異なるイメージであり、それが違和感の 元のように思いました。
ではどういう文脈であれば良かったのか?自分は以下のように考えます。
1.異性愛者 + HIV陽性者 = HIV陽性障がい者
2.LGBT + HIV陽性者 = HIV陽性障がい者
HIV陽性者の人も様々な事情・病状を持っているので、全部が自分とは異なるでしょうが、HIV陽性者は、多くは病気をコントロールしつつ、健常者とほぼ変わりなく仕事ができる状態であり、一見してはLGBTでもHIV陽性者であることも分からない場合が多く、HIV陽性者は特にそうです。少し違うのは病院での受診が多いことですが、一般の労働者でも無くはない事例ともいえます。
では、健常者と変わらない働きができるHIV陽性者は、何を思うのか?
仕事で信頼されたい、責任ある仕事がしたい、給料は高くなってほしい、昇進もしたい、安定して仕事したい、休暇はちゃんと欲しい、人と比べて秀でていたい、キャリアアップを目指したい・・・などなど、それこそ外見上の差異がないからこそ、一般の労働者と変わらない望みを実現したいと思うでしょう。しかし、それはLGBTであることや病気・障がい者であることによって一般の従業員との「区別」されることが望みとは言えないと考えます。
一方で、企業としての人材採用活動は、「良い人材」を確保し、最大のパフォーマンスを発揮して働いてもらうことですが、このセミナーでの企業側の「良い人材」とは「障がい者である」という点でした。自分としてはこれが最大の違和感の原因であると思います。
自分のパフォーマンスではなく、自分のステータスとしての「障がい者」を評価されることが、自分の中では企業で働くことの意味に合致しなかったのです。
自分の違和感は
・「障がい者」として一括りにされること
・LGBTや障がい者としての「区別」を望んでいないこと
・企業が求めているのはその人のパフォーマンスではなく、「障がい者」というステータスであること
企業側としてはあまりHIV陽性者が働くという研究が進んでいないように思います。
また、コンプライアンスを重視するあまり、その「人」を見ていない採用活動の姿勢が残念に思いました。
上で、企業の研究が足りない!人を見ていない!などとエラそうなことを言いましたが、とはいえ、あの場に居たHIV陽性者は、自分の負い目であった「障がい者」の烙印が、もしかしたら「資格」に変わるのではないか?!という淡い期待を持っていたことは事実です。「障がい者」であることを「武器」にキャリアアップを目論んだ、つまり「損」を「得」に変えたいと思っていたからこそ、あの真剣な、ギラギラした眼差しで説明を聞いていたのではないかと思います。
このセミナーは、働きたい転職者と良い人材を採用して働いてほしい企業とを結び付ける、一般の転職説明会と目的はあまり変わりがないのですが、このセミナーでの企業側の良い人材とは「障がい者」なのです。
企業としてはそれが目的であれば、パフォーマンスとか、人となりとかは就職希望者のワガママでしかないのだというのも理解できるので、一義的に非難するのは間違いです。
しかし、もし企業が障がい者の採用をもっと効率的にしたいならば、HIV陽性者の研究を行うことは、企業にとって意味があると言えます。
多々、批判的に書きましたが、このようなセミナーに何社もの企業が参加し、自社の取り組みを説明してくれるということ自体、非常にありがたいことであり、人事部門・採用部門の方々には感謝したいです。
ただでさえ、マイノリティーであり、さらに社会的に負い目を感じてしまう状況にあって、苦しんでいる人がいるわけで、それに手を差し伸べる企業としての姿勢に感銘を受けます。
企業だからこそ、このような活動を、コストセンターとして処理するのではなく、利益を上げる事業に進化させて、一時的な流行り廃りに惑わされない継続的な取り組みにしていただきたいと切に願います。
以上

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