陽性者と家族の日記 “鳥前 進”

ただサボってただけ

鳥前 進

最近自分がHIV感染症であることをほとんど意識することがない。
感染が分かったばかりの頃は常にHIV関連の情報収集をして、ネガティブなことばかり考えていたけど、今はものすごく穏やかな時を過ごせている。

こんな日が来るとは思わなかった。
自発的にHIVのことを意識することがほとんどなくなった。
仕事をしているときも、家族や友人と過ごしているときも、休日に出掛けているときも、HIV感染症の患者であることや鳥前進であることはほとんど思い出されず、日記を書くことも思い出されることはなかった・・・

というぐらいに気持ちは落ち着いているのですが、落ち着いたなりにちゃんと情報発信できるよう頑張りますので、引き続きよろしくお願いします!

感染症から解き放たれる年でありますように。

鳥前 進

あけましておめでとございます。
今年こそは、感染症から解き放たれる年でありますように。

ありがとう

鳥前 進

お墓参りに行ったのですが、お墓はもうそこにはありませんでした
僕に知らされることなく、僕の知らないところへ消えてしまいました

一瞬でも愛した人に一生消えないウイルスを身体に埋め込まれ、その人は勝手にこの世から消えた
ご遺族のタイミングでお墓参りに誘われ、彼らはいつの間にかお墓ごといなくなった

これでやっと後腐れなく前に進めそうです
ありがとう

「とりあえず」では前に進めなかった

鳥前 進

8月1日は元彼の命日。2017年に亡くなった。
ご家族は彼を東京の墓地にのこし、よそへ引っ越した。
僕はもう前に進みたいと思って、今年はお墓参りに行くのをやめた。
そしたら、毎日必ず彼のことを想う瞬間があって、その度に申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

おかしいよね、人にHIVをうつして、自分で勝手にこの世から消えていった人に、うつされた僕がなんで申し訳なく思うの?

2021年8月1日の朝、「もうこれで終わりだ」と決めた。そう思ってた。しかし、僕はまだ前に進めずにいる。
HIV感染を言い渡されたあの日から「迷ったらとりあえず前に進む」と自分に言い聞かせてきたけど、「とりあえず」では前に進めなかった。

毎日飲み続けたその先に

鳥前 進

今回で2度目かな
22時の服薬タイムを前に、お薬飲むの疲れたなぁって思った
毎日飲み続けたその先に何があるのだろうと

昔は黙ってても生きられた
今は毎日の薬を欠かしたら生きていけない
生きるために積極的に薬を飲むけど、じゃあ何のために生きてんのって自分に問うてもその答えはない

きょうもまた、プログラムされた通り、青と黄色の粒を包むシートを破り、22時のために買った水とともに身体に流し込んだ
毎日飲み続けたその先に何があるの?
あすもきっと、プログラムが実行されるたびに、同じことを思うのでしょう

無機質な墓石の下でまた独りぼっち

鳥前 進

4年前の8月1日に自ら命を絶った元彼のお墓参りに、彼のお姉さんと一緒に行ってきた。

お姉さんは終始はつらつとしていて、2年前の初めてのお墓参りで人目を憚らず泣き崩れた人と同じ人とは思えなかった。手際良く支度をする様子を見ると、ここに何度も来ているのだろうと容易に想像された。お線香をあげ、手を合わせると、声は聞こえなかったけど、唇が「バカヤロウ」と紡いだのが読み取れた。

一方で、僕は、そんなお姉さんの横で、無機質な墓石に視線を落とすだけで、毎年の彼の命日で毎回そうだったように、今回もかけてあげる言葉が見つからなかった。

「遠くに引っ越しちゃうから、緊急事態宣言が出ているけど、来たかったのよ、あなたと一緒に。」お墓参りの帰り道で、お姉さんはそう語った。

どこへ、どんな理由で引っ越すのかは分からない。お母さまも一緒なのか、そもそもお母さまが(東京に)いるのかも、病気で亡くなったお父さまがどこで眠っておられるのかも分からない。僕が何を期待されているのかも分かるようで分からない。ハッキリしていたのは、お姉さんが“前に進む”なか、彼と僕は4年前の8月1日から時が止まったままで、彼は無機質な墓石の下でまた独りぼっちになってしまう、ということだった。

あなたが亡くなったときではなく

鳥前 進

どんな人も
死に向かって生きてるんだよ

お年寄りも赤ちゃんも
僕もあなたも
死ぬことは決まってるんだよ

いま生きてるのは
ほんの少し前に死ななかったから
ただそれだけのこと

**********

今日僕は死ななかったけど
明日生きているかは誰にも分からない

今日大事な人が生きていてくれても
明日生きているかは誰にも分からない

あなたが亡くなったときではなく
あなたが明日も生きていることに涙を流したいの
明日また逢える保証なんてどこにもないんだから

今年もまた、あなたにかける言葉が見つからないまま

鳥前 進

そろそろ忘れるときが来たのだと思っていた
だんだん思い出せなくなっていたあなたの横顔
でも、8月1日が訪れると、それらは否応にも鮮明に甦ってきた
僕があなたと別れるきっかけとなった、あのときの言葉とともに

今日やっと気づいたんだけど、違うかな
HIVに感染したことをあなたに伝えたときに返してくれたあのときの言葉は
「これでやっと一緒に死ねる人が見つかった」という意味だったんでしょ
最初に甦ってきたあなたは、狭い部屋のなかで遠くを見つめながらこうつぶやいていた
「これでやっと一緒になれたね」って

3年前の8月1日、あなたは自ら亡くなることを選んだ
3回目の8月1日がいま、静かに終わろうとしている
今年もまた、あなたにかける言葉が見つからないまま

君の無念を晴らすためなのか、僕の悔しさをぶつけているだけなのか。

鳥前 進

その人は、昨今の新型コロナウイルス感染症が世界的な広がりを見せているなか、感染症の恐ろしさや、感染した人たちへの差別を知ったといいます。
その人は、その人の息子が感染したHIVについて改めて勉強し、HIVに感染した人たちへの差別を知り、そして同性愛者を取り巻く環境について改めて考えたといいます。
その人は、その人の息子が僕にHIVをうつしたことや、HIVに感染した僕に対して向けられた過去の言動について謝罪したいといいます。

僕は、その人がHIVや同性愛を知ろうとしてくれたことをとてもうれしく思います。
僕は、その人が自身の言動に過ちがあったことに気づいてくれて救われた気がしました。
しかし、僕は、その人の「謝罪」に、息子さんの居場所はどこにもないような気がしてならなかったのです。

**********

僕は、あなたの息子さんと別れた後、一切の連絡を絶って、自分だけがHIVと向き合うことを「選んだ」ことに後悔しているのです。
僕は、現実を受け入れられずもがいていたアイツを容赦なく切り捨てた過去の自分が悔しくて悔しくてたまらないのです。
だから、あなたが僕に、過去の出来事をいくら謝っても意味がないのです。

申し訳ないと思うのなら、その気持ちをあなたの息子さんに伝えてあげてください。
彼はきっと、自ら命を絶つ前に味わった絶望を誰にも理解されることなく、今ももがいているでしょうから。

明けない夜はない

鳥前 進

緊急事態宣言が発令された東京は静かな夜を迎えました。
明けない夜はない。
東京が、日本が、そして世界が、輝きを取り戻す時が訪れることを信じて。