スタッフ日記 “矢島 嵩”

何歳になってもビギナー?

矢島 嵩

ちょっと前に、web NESTの運営委員のつぶやきで「人生はビギナーズ」という映画がらみのことを書いたのですが、ここではしつこく別の角度から・・・。

75歳の男性が妻と死別してからゲイであることをカミングアウトして残り少ない人生を謳歌するべく・・・。ストーリーはたぶんあちこち書かれていると思うので詳細は割愛しますね。僕が思うのは、自分の人生において「昨日までがこうだったから、明日もこうだと決めつけないでいい」という、言ってみれば当たり前のことです。この感覚とか発想のことを、実は「若さ」というのかもしれませんし、「希望」というのかもしれません。

HIV陽性と知って、比較的スムーズにそれを受け入れて自分の生活やネットワークを維持していく「ソフトランディング派」も多くなった反面、心身ともにダメージを受け、社会的にも人間関係にも大きく損傷を受けてしまう人もいます。それはそれは大変で修復できないほどの傷を残すこともあります。でも、時にそれをきっかけとして、新たな人生をビギナーとして歩み始めている人にも出会うことがあるのです。僭越ながら(笑)、僕自身もその1人だったのですが、ビギナーズラックのような、怖いもの知らずの年月をこの年齢になってまた過ごせたことは、何ものにも代え難いことだったなと今頃になって思います。

もうひとつ、「ヘルプ〜心がつなぐストーリー」という映画を観ました。1960年代のアメリカ南部ミシシッピー州ジャクソンが舞台の黒人メイドたちの話・・・と設定を聞いただけだと、人種差別と戦う辛く厳しい映画をイメージしそうですよね。でも、実際はなんだかコミカルで味わい深い印象の映画で、名女優たちの熱演合戦にもついつい引き込まれてしまいました。

冷静に考えてみるとかなり悲惨なシチュエーションが描かれているこの映画が、妙におかしげで楽しげな雰囲気なのは、登場人物が「ひとかたまりの被差別群」ではなく、ひとりひとりが表情豊でチャーミングだからです。悲しみとか、怒りとか、喜びといった感情に満ちていることももちろんですが、向こう見ずだったり、そのくせ臆病だったり、ちょっと意地悪だったり、うそつきだったりといった、完全無欠とはほど遠い愛らしさがあるからなのだと思うのです。

どちらの映画もシンプル。
自分らしくあること、それが一番。
そんな気持ちにさせられました。

世界平和や人類の未来よりも、今日の歯痛が優先事項か

矢島 嵩

そわそわとした季節です。僕の周囲にも、異動の内示が出て住居のことや家族のこと学校のことなどあわただしく手続きをしている人もいるし、年度末の仕事に 追われて無酸素運動で突破しようとしている人もいるし、季節が春めいてきてなんとなくロマンチックな気分だったり、ただただエロい気分になっている人も(笑)。僕はといえば、仕事環境が変わりあれこれ手続きなどをしつつ、年度末までに仕上げるべき仕事がいよいよ待ったなし、でもなんだか春めいていて浮かれたいような気持ちも少々。

そんなときに、折り悪く歯が痛くなった。どんどん痛くなる。奥歯が噛み合わせられないほど痛い。突然なにもかも手につかなくなってしまった。 急遽かかりつけの歯医者に行き、レントゲンをとり、あーなるほどふむふむと、10年前のかぶせものをとり除き、深海油田を掘り当てるみたいな感じで、歯の芯をギリギリグリグリと掘り進むこと(僕の感覚では)1時間以上、根っこのあたりにたまった膿が吹き出てきてめでたしめでたし。抗生剤をもらって帰り、万事休す。

HIV陽性である僕にとっては、歯科治療はいまだ解決していない社会的な課題です。ですが、陽性者としてできることは、やはり「歯が痛くないうちに、かかりつけの歯医者を作っておく」です。だって、この激痛の中で「HIVなんですけど診てもらえますか?」と訪ね回ったりするのもしんどいし、かといって、膿を出したり、もしかしたら切開していたかもしれず、抗生剤も処方されてて、HIVを隠して受診するのは気がひけるという以上に、自分にとって不安じゃない? 年に一度の定期検診しかしてなかったけど、HIVを理解してるかかりつけの歯医者さんがいてほんと助かった!

「世界平和や人類の未来よりも、今日の歯痛が優先事項である」とは、だれかが言った、ちょっとふざけてると思う人もいるかもしれないけど、ちっぽけで愛らしい人間っぽさをあらわす格言じゃあございませんか? それに、「ころばぬ先の杖」とも言います。歯痛ごときとあなどることなかれ。備えあれ。

そして、ありふれた毎日がある。

矢島 嵩

web NESTのトップページ、前回のぷれいす日記(って、他に誰も書いてない?)の予告通り、リニューアルからちょうど4ヶ月でメッセージが変わりました。

背景画像は朝露にぬれた芝でしょうか、メッセージもちょっと水分を含んだものになったかな? 楽しいこともあるけど毎日は続かない、嫌なことがあるけどいつもではない、感動の瞬間もあるけど3歩歩いたら忘れてたり(笑)。

そう言えば、不思議の国のアリスで、三月うさぎたちに囲まれて「なんでもない日ばんざ〜い」って唄いながら「なんでもない日パーティ」をするでしょ?(うろ覚えなんですが・・・)自分のなんでもない日は、誰かの特別な日かもしれないし、自分の特別な日は、誰かのなんでもない日かもしれない。だからみんなで「なんでもない日ばんざ〜い」なのかな? ・・・なんて考えていたら思考が迷子に・・・。

そして、ありふれた日常に戻ろう。

Be yourself

矢島 嵩

web NESTのトップページに、フラッシュでメッセージが出ているのご存知ですか?ちょっと雲があるけど、ぬけるような青空を背景にこんなメッセージが流れています。

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誰もが同じじゃないけど、
どこかで分かり合える

ひとそれぞれだけど、
ひとりぼっちじゃない

ここでさまざまな経験や考えにふれて、
自分らしく生きるヒントを探してみませんか

Be yourself
HIV陽性者とそのパートナーや家族、ともだちのために
 – – – – ——————— — – – –

実はこのメッセージと背景画像が来週変わります。
生命力あふれる季節の訪れとともに・・・。
web NEST http://web-nest.ptokyo.org/

メンタルが強いとか弱いとか

矢島 嵩

先日、新宿二丁目のコミュニティセンターaktaで行われた「HIVと、メンタルヘルスのこと」というトークショーに、新陽性者ピア・グループ・ミーティング(PGM)のコーディネーターとして出演しました。

実は、お誘いいただいた時には、「メンタル」というお題が僕にはちょっと荷が重いというか、専門家じゃないしとか、これでもあれこれ躊躇したのです。でも、もうひとりのゲストが精神科医/臨床心理士(「HIV/エイズガイド」第7話の監修でお世話になった、しらかば診療所/AGPの平田俊明さん)ということもあって、かえって僕の立ち位置がというか役割がわかった気がしました。つまり、病理としてのメンタルとかばかりでなくっていいんだーという、考えてみれば当たり前の事に気付いたのです。

「メンタルを強化してロンドンオリンピックに」とか、「カレシともめてて、メンタル最悪」とか、世の中ではずいぶんいろんな意味で使われている言葉だと思うのです。ひごろ多くのひとが自分の一部として身近にお付き合いしていて、時に手に負えないこともある情緒的な部分やイメージや気持ちなどなど・・・。そんなことについて、HIV陽性告知という大きな出来事との関連したテーマとして、自分なりにお話をさせていただいたのでした。

あらためて思ったのは、周囲の環境とかネットワークとか社会とか、そういったことを抜きに考えられないテーマなんだなという、これまた当たり前のこと。そういえば、ぷれいすのミッション(活動目的)って知っていますか?「HIV/AIDSと共に生きる人たちがありのままに生きられる環境を創り出すこと」 意味深い言葉だなーと今更ながら思います。

ネック!ネック!ネック!

矢島 嵩

一昨年から腰椎ヘルニア、昨年からは頚椎ヘルニアとつきあっています。やっぱり直立二足歩行に適応してないんだろうか?

2日に1度くらい近所の整形外科(ここにたどり着くのにもHIVがらみでちょっとしたすったもんだがあったんだけど、、、)に通っていて、首をひっぱったり、何とか線みたいのをあてたり、きわめつけはウォーターベッドで全身マッサージ。これらがどれほど回復につながっているのかはさておいて、とにかく気持ちが良いのです。何と言うか、ほんのつかの間、重力から開放されて遊泳気分。あ~極楽。

これに反して辛いのが、パソコンに長時間向かっていること。ぷれいすの事務所ではノートパソコンを使っていて、気がつくとかなりの長時間、顔の位置よりかなり低いところにある画面をのぞきこむようにして作業をしているのです(鶴がドジョウを食べるようなイメージ?)。どうやらこれが頚椎には良くないらしいのです。

実はぷれいすには、おーつきさんという頚椎ピアのちょっと先輩がいて、ノートパソコンを高い位置にして、首を折らずに画面を見れるようにするという秘技?を開発していました。ノートパソコンの下にA4版のものを何冊かいれて高さを調節するだけのことなのですが、これをすると疲れにくい。

ちょうどよい高さは人によって違うのですが、僕は背が高いのでかなりの底上げが必要です。こんなときに、ちょうどいいのが分厚い研究報告書たち。念のため言っておきますが、研究報告書がノートパソコンのかさ上げにしか値しないと言うつもりなんかまったくありません。ただ、その分厚さには時々辟易としたりもすることも事実。それがこんな時に役に立ってくれるなんて、赤鼻のトナカイみたいに素敵な話かなと(汗)。というわけで、先人たちの偉大な研究成果の礎(いしずえ)に支えられて日々の活動をしているというご報告でした。

先日そんなことを事務所で話していたら、「僕もです」と新人頚椎ピアが登場。多いんですね。みなさん困っているんです、作業効率やら集中力やら、とにかく仕事のネックになるってね。

脱兎のごとく

矢島 嵩

2011年はいつもと違う年でした。大震災と原発事故という価値観がひっくりかえるような未曽有の出来事が、自分にとって社会にとってどういうことだったのか。その只中にいる今はまだ誰も分からないままにいて、きっと何年もたってからそのことの意味がはっきりしてくるということなのかもしれない。

とにかく、いつもと違う1年がすごい勢いで走り去っていきました。個人的にも落ち着きのない、軸の定まらない時間を過ごしてきたように感じています。そんな中でも多くの人に出会いこれからのことも少しずつ語り始めるようになりました。

願わくば、腰をすえて、未来を見て、次のステップに踏み出すような、そんな新年となりますように。

みなさん、どうぞよいお年を。

怒りと癒しのエイズ学会

矢島 嵩

今年のエイズ学会は、社会系の演題が多く出ていたにもかかわらず、薬害、薬物、滞日外国人、セックスワーカーといったとても重要な分野のいくつかがまったく欠落していて、僕にとって「学術集会」としては何か足りない?といった感じ。でも、個人的には「学会+その周辺」で、とにかくいろ〜んなことがあって、それはそれは濃密な3日間でした。

この学会でのキーワードは僕的には、「NGOと行政の協働」と「予防・検査・支援の連続性」の2つだったかなと思っています。どちらも「連携」が肝。

これって書くのも言うのも簡単だけど、実をともなって行うのはけっこういろいろ大変。だって、紙の上のことではなくて、一家言ある生身の人と人が向き合ってなし得ることだから。スムーズに理解しあえる場面ばかりでなく、むかついたり、失望したり、暴走したりと、いろんな人間臭いドラマがあるわけで。だからこそ面白いなんて余裕もないしね。

NGOと行政とか、予防や検査と支援に関わる人の間にも、自然にわかりあえるといった楽観だけではすまされない距離や溝があったりすることも事実。だからこそ、言葉をつくして、心を開いて、はじめてほんの一歩近づくことができるはず。でも、その困難さををいたいほど感じてしまい、途方に暮れる場面に多くいました。

その一方で、実は、人と人のつながりや、もっと大きな何かを実感して救われることを知ったのもこの会期中でした。2日目、12月1日世界エイズデーの夜、さまざまな偶然が重なって何気なくメモリアルイベントに参加することに。ハイパーなテンションのまま会場に入ったのだけれども、いつの間にかその「場」にある何とも言えない空気に浸って、自分や自分を支えてくれた人たちや、遠くへいってしまった人たちのことを考えたり、このどうしようもなくふつふつとする怒りや、果てしのない地平のような悲しみや、そんなこんなを感じながら、みんなで歌い、祈り、語り、泣きました。

We shall overcome
We shall overcome
We shall overcome some day

Oh, deep in my heart
I do believe
We shall overcome some day

立ち止まるのも後ろを振り返るのも大切だなーって、いつも前向きじゃ生きて行けないものね。頭だけじゃなく、心も体も、もみくちゃで、へろへろの学会体験でした。

久しぶりの「ぷれいす日記」

矢島 嵩

ちょうど1年ぶりの「ぷれいす日記」です。

かつては「日ごろ感じているあれこれ」や、「活動にまつわるこぼれ話」的なことを書いたりしていたのですが、このところ「日ごろ感じているあれこれ」がやや暗めで迷走気味、「活動にまつわるこぼれ話」がついつい愚痴っぽいという日々だったので、少々自粛しておりました次第です(汗)。だけど、ふと、それはそれなりで良いのかも?って・・・。

個人的には、ブログもSNSもTwitterもなーんもしていないのだけれど、web NESTや、HIVマップや、ぷれいす東京Newsletterや、NEST NEWSLETTERなどなどあっちこっちに関わっているので、実は編集後記や日記やらなにやらを書いていることが今でもけっこう多いのです。

web NESTは、先日リニューアルして、編集後記は「運営委員のつぶやき」と名前を変えて(お化粧直しして)再登場しました。。過去のエントリーが読みやすくなったので、あらためて自分が書いたものを読んでみるとなんだか、懐かしいかったり、恥ずかしかったり、若かったり(汗)といろいろ感じます。月に一度、しかも2-3行だったりすることもあるのだけど、10年も書き続けているとそれなりにヒストリーが見えてくるものですね。NEST NEWSLETTERは、2003年の秋に編集を担当して以来毎月1号づつ欠かさずに出してきたので、かれこれ100回目の編集後記です。こちらは、季節便りや健康ネタが多く、そのときの体調の好不調が自分なりに思い出せるのでそれはそれでいいものです。

そんなわけで、またぼちぼち書かせてもらおうかと・・・。
よろしくどーぞ。

Newsletter67号ができました!

矢島 嵩

ぷれいす東京Newsletterの年間サイクルをちょっとばかりご紹介!

Newsletterは年4回、2月、5月、8月、11月に発行しています。それぞれ季節や行事にからんで絶妙?なタイミングで一年間まわっているのかなーと思っています。

11-12月にエイズ業界(?)ってイベントが多く、今年も第24回日本エイズ学会学術集会(東京品川)が明日から始まりますよね。この時期の盛りだくさんなあれこれを年末年始にかけていろいろな人に書いてもらい、2月号が寒中真っ只中にだいたい増ページで発行。年度が明けると、ぷれいす東京の活動報告会の告知に合わせてゴールデンウィーク前にバタバタと駆け込み印刷するのが5月号。8月号はお盆休み前に印刷に出して、後に発送というスケジュールが多く、そして11月号はエイズ学会でも配布できるように11月中旬に発行という段取りなのです。

部門報告は、実は4半期報告になっているのご存知でしたか?1.2.3月→5月号、4.5.6月→8月号、7.8.9月→11月号、10.11.12月→2月号となっています。各部門のコーディネーターや報告者が3ヶ月分を大急ぎでまとめ、その間にほか原稿が集まってきて、編集、レイアウト、校正、印刷、紙版の発送、PDF版のアップといった流れとなっているのでした。

そして、めだたく、おかげさまで、11月号が17日に無事発行となりました! PDF版はこちら

今号は「続けよう 続けたい」と題して、宮田一雄さんに巻頭を書いていただきました。国内のエイズ啓発キャンペーンのテーマが今年は「続けよう Keep the promise, Keep your life」に決まり、その決定に至るプロセスの変革や今後の課題などについても言及されています。

また、ぷれいす東京新人ボランティア合同研修や、「MSMワークショップ」後に他団体と恊働ではじまったアウトリーチの参加者の個性と現場感覚あふれる感想文を掲載することができました。ウィーンで行われた国際エイズ会議に参加した2名からの報告も写真も加わりイキイキと。部門報告は活動の充実に比例して報告内容が多くなり、いささか小さい文字になりましたが、ぜひお読みになっていただければと思います。

さてさて、次の号はどうしましょ。
そろそろ準備を始めないと……。
と、こんな一年サイクルなのでした。